さいの

僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46のさいののネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

セカオワのピアノも務める藤崎沙織さんの小説『ふたご』は、自身の半生を基にした私小説的な作品だが、辛い体験ばかりをコラージュしたような壮絶な作品で、文庫版解説で言われるように「いつか、うまくいくから」と祈り囁かないと読み進められないような痛みに満ちた物語である。
作品の主人公を、いま音楽シーンで輝くSEKAI NO OWARIのSaori本人に無理やり重ねて、いつか貴方は報われるのだと思わないと、到底読了できない。
それと同じことが、この映画にも言えると思う。

決して表には出せない苦しさや葛藤が、鮮烈なデビュー以来ずっと蓄積され続けて、気づけばもうどうにもならないようにすら思われるほどに巨大になってしまっていた。映画のなかにはその「決して表には出せない」はずの痛みが溢れてしまったかのように曝け出されている。
でも勿論、これで全てですらない。その痛みを抱える彼女たちとせいぜい一介の観客でしかない私たちには、決して埋まらない溝がある。「共感」したなんて、烏滸がましくてとても言えたものではない。想像を絶する切実な苦しみがあることしかわからない。

だから、公開当時——つまり彼女たちがまさにその絶望の渦中にいたとき——にこの映画を観ると、ただ涙が出るばかりで、なんの説得的な希望も示せず、ひたすらに圧倒的な無力感に襲われた。3回劇場を訪れて、いずれも同じ結果だった。ブルーレイを買っても同じで、ほとんどまともに観とおすことすらできなかった。

でもいまなら、観かえすことができる。「いつか、うまくいくから」という祈りが、もう現実であることを私たちは知っている。グループの後身である櫻坂46の満を持しての大活躍。そして、1期生の功労者小林の卒業コンサートに欅坂時代からの既卒の1期生がほとんど全員集合する勢いで駆けつけ、皆楽しそうに公演中騒いでいたこと。
全て、現実離れした苦しさに満ちていたあの過去から地続きの今である。
いつか舞台の上でまた輝けるし、舞台を降りてもみんなまた笑って集まれるよ、と、映画を観ながら言い聞かせる台詞についに現実が追いついた。

だからもう、この映画を怖がらなくてよくなって、とてもうれしい。
さいの

さいの