S田

大怪獣のあとしまつのS田のネタバレレビュー・内容・結末

大怪獣のあとしまつ(2022年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

前提として、
予告編を観た時に抱いた期待以上のものが出てきて驚き、トータルしてこの映画がとても好きになったため未見の人に向けネタバレをしつつ確信に触れる部分やラストシーンに触れないようレビューを書いています。

突如怪獣が襲い来て、日本が対応しあぐねている間に謎の光と共に怪獣が倒れ、後には死体と、まだ日常に戻れない人々が残る…という世界観ですが、これは前置きなので動いてる怪獣はいません。既に分解が始まった巨大な動物の死体です。

パカーンと股をおっぴろげて転がった死体。これ誰がどう処理すんの、と途方に暮れ責任を擦り付け合う頼りない内閣。
シリアスな空気でやられたら白けるだけの、まとまらない官僚たちと、それに振り回される特務隊の面々を観ていく紙一重の群像劇だと感じました。

特に内閣官僚たちの錚々たるメンツで演技力は間違いないものとして、奇抜すぎる言動にオブラートが存在しない尖った掛け合いは迫力があり、
正直ギャグとしては面白く感じないんですがその掛け合い自体が「本物」に感じてしまいああいるなこんな人、きっと今こう考えてるんだろうなと想像がつくところに感心を覚えました。いないんですけどこんな言動の知人は。
登場人物がおかしな事を言ったからと言って必ずしもそこで笑ってほしい訳ではないだろうと思いますし、そもそもこの作品の面白さはギャグではないだろうという根拠の無い確信もなぜかでき。

てんでばらばらな様でいて、怪獣の死体を「どうにか」したいという所に必ず結びつくので軸がブレず面白いです。


権力者の誤判断や利己的な行動で人が死ぬ映画ならそれこそたくさん観られますが、この映画はその滅茶苦茶になった判断、指揮系統での「失敗」におそらく死者が出ていません。(過去を含まない描写の部分です)
トライアンドエラーを繰り返す映画が好きというのもあり、
Q.これをしたらどうなるかA.こうなるQ.この場合何が起きているかA.こういう事が起きている、という空想科学読本を映像化したかな…とも思える淡々としたはこびが独特で、他で味わい難い個性が良かったです。

ところでこの映画は、
冒頭で怪獣の討伐を目的とした徴兵があり犠牲が出たこと、
警戒宣言が解かれていない街では怪獣の起こす振動衝撃か、あるいは兵の攻撃の対策としてガラスに補強がされるなか他人事のように逞しく生きる若者たちの描写、
身の安全を感じ始めてから不安のぶつけどころが政府しかない市民のデモなど人々の様子が描かれます。
この辺りのシーンが見切れたポスターに至るまでオリジナルで見応えがあり、言ってしまえばこの後国民の様子は本当に僅かしか描かれないのに短い時間で簡潔に説明が済んでいて素晴らしく、計算し尽くされた丁寧な作品である事は間違いないと思います。


コメディとかトンデモとか、観る人によってジャンル分けがバックリわかれそうだなと思いますが、「突如怪獣が訪れた世界、それに順応しようとする人々の話」という形態はれっきとしたSFだったなと感じたのでそれも記しておきます。

映画とは関係ありませんが、パンフレットとグッズの出来が凝っていて感心させられたのでこれから映画館に行く方はぜひ視聴「後」にグッズコーナーを覗いてみては如何でしょうか。おそらく先に見ても何の変哲もないグッズにしか見えないと思いますので…。
S田

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