グラノーラ夜盗虫

ドント・ルック・アップのグラノーラ夜盗虫のレビュー・感想・評価

ドント・ルック・アップ(2021年製作の映画)
4.5
気候変動問題を巨大彗星の追突に置き換えてアメリカ政治・経済界と社会の反応を皮肉たっぷりに風刺した映画。性格の悪い映画が好きな性格の悪い私は楽しめた。マネー・ショートとブックスマートにつづき、アダム・マッケイ監督のユーモアと誠実さがとても自分の好みにはまるので、今後も追っていきたいと思いました

1. 万物がイデオロギー論争
気候変動はもちろん、最近ではコロナワクチンで顕著だが、アメリカでは科学的にあきらかな事象でさえも、共和党vs民主党の二項対立的構造に巻き込まれ、”本当か嘘か”という点からイデオロギー論争の対象になることが多い。作中でもこれに漏れず、彗星衝突に直面せよというリベラルの"Just look up派"と、これをフェイクニュースと扱う保守の"Don't look up派"に二分される。彗星の存在が視認できるようになった段階でも、対策議論以前に真偽が議論の対象になってしまう様は、いまだに気候変動問題についてその真偽を論争しているアメリカ社会を痛烈に皮肉っているようだ。

2. テック企業の政治への影響
作中ではBASH社として描かれる巨大テック企業が、国家の重要な意思決定に介入していく様は、米国政府と大企業の癒着のあり方を風刺しているようであった。プレゼンのカリスマさゆえに、怪しいプランでさえも正しく聴こえてしまうバッシュCEOは巨大テック企業の有名な創業者たちを想起させる。(ネトフリはGAFA+テスラいじりが好きな気がする)

3. 共和党の反知性主義
メリル・ストリープが演じた大統領はおそらくサラペイリンをモデルとしていると思われるが、ここまで馬鹿にして大丈夫なのかと思うくらいの描写だった。共和党も民主党と違わずエリートから構成されているわけだが、労働者階級の支持者たちを実際は見下している様子や、自身の支持率を上げるためになんでも利用する様子(特に緊急事態、イラク戦争時のブッシュ政権を想起)など、マッケイ監督は共和党を心から嫌っているのではあるまいかと思う描写が続いた。私はリベラルなので痛快と感じたが、このような描写は米国の分断をさらに加速されるという矛盾も気になりはした。

4. メディアと一般大衆の軽薄さ
彗星衝突の深刻さに関わらずこれがテレビ番組の”科学”コーナーで扱われてしまうことはまさに気候変動問題の扱われ方を描いているし、ジェニファーローレンス演じる主人公が切実に世間に訴えかける様が”ヒステリー女”として消費される様子はグレタトゥンベリさんへの中傷と共通する。

(以下ネタバレ)
あの終わり方だとしても、ティモシー・シャラメにプロポーズされることでハッピーエンド感が出るのでよい配役でしたね