てっぺい

空白のてっぺいのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
3.5
【ホラーじゃなくなる映画】
もしも不慮の事故に関わってしまったら?娘を亡くした父の狂気に蹂躙されていく人々。ちょっとした掛け違いで増していくその痛ましさがリアルで、誰しもに感情移入、逆にホラーがホラーでなくなっていく一本。
◆トリビア
○本作のモチーフは、2000年代初頭に発生した事件で、古書店で万引きをした男子中学生が逃走し、電車にはねられて死亡。古書店の店長に非難が殺到し、店は廃業に追い込まれた。(https://news.yahoo.co.jp/articles/60ddd13f87065b1cf1e5b29750070fc028f715bf?page=2)
○ 本作の製作を手がけた映画会社スターサンズ代表の河村光庸氏は、本作を吉田監督版「スリー・ビルボード」と称した。(https://eiga.com/news/20210830/35/)
○脚本の時点で、主人公は古田新太(とソン・ガンホ)のイメージで製作された。(https://eiga.com/news/20210909/35/)
◆概要
監督・脚本:「ヒメアノ~ル」吉田恵輔(オリジナル脚本)
出演:古田新太、松坂桃李、田畑智子、「佐々木、イン・マイ・マイン」藤原季節、「湯を沸かすほどの熱い愛」伊東蒼、趣里、片岡礼子、寺島しのぶ
◆ストーリー
女子中学生の添田花音はスーパーで万引しようとしたところを店長の青柳直人に見つかり、追いかけられた末に車に轢かれて死んでしまう。花音の父・充は、せめて彼女の無実を証明しようと、事故に関わった人々を厳しく追及するうちに恐ろしいモンスターと化し、事態は思わぬ方向へと展開していく。

◆以下ネタバレレビュー

◆狂気
万引きを一向に信じず、青柳を詰め続ける添田。いじめと信じて疑わず、中学教諭を詰め続ける添田。暴言を吐き当たり散らす添田。前半は、添田が何かやらかすんじゃないかとハラハラする展開。
◆二次災害
マスコミの煽りで、不必要に添田と青柳に降りかかる二次災害。掲示板にいいように書かれ、バスで盗撮され、挙句に青柳が記念撮影を求められる始末。前半は常に画面にいたのではと思えるほどのマスコミに、そして添田の狂気に、自害に追い詰められていく青柳がとても痛々しかった。
◆正義
ボランティア含め、自分が正義であることを疑わない草加部。青柳の重荷になっている事に気づくまで、ある意味添田と同じく暴走していた彼女。思えば2人とも、自分の信念を貫くあまり周りが見えなくなっていることで共通している。この、各々の信念が、ちょっとしたボタンの掛け違いで周囲に被害をもたらしているわけで、本作は、そんな二つの“暴走正義”を描いていたように思う。
◆感情移入
無関心だった娘を、前妻の言葉や備品から思い巡らしていく添田。前半の狂気も、娘の失った父親という立場でどうしても悪者に見えないし、思えば青柳に一度も手を出していない添田に、次第に感情移入していく後半。自殺した中山緑の母からなお謝罪を受け、子を亡くした親としての身の振る舞いを知る添田。「どうやって折り合いをつけるんだろうな」の言葉が響いた。同じイルカの雲を見ていた娘に号泣する添田を見る頃には、自分も十分落涙するほど添田に感情移入していた。
◆空白
「俺もお前も大事なものを失った」と最後、青柳に語った添田。添田は娘を失い、青柳は職を失い、まさに空白を身に宿した2人。さらに、よくよく考えればあのイルカの雲の絵は、空に白が浮かぶまさに“空白”。でも本作は終わってみれば、父が亡くした娘に想いを寄せていくのが話の大筋。空白だった父と娘の関係を、不慮の形ではあるものの取り戻し繋がった、家族愛の物語だったように思えた。

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