けーすけ

空白のけーすけのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
5.0
地方の小さなスーパーマーケットで二代目として店長をしている青柳(松坂桃李)はある日化粧品を万引きしている女子中学生を捕まえた。ところが少女は店から走って逃げだし、青柳に追いかけられている途中で不幸な事故にあってしまう。少女の父親・充(古田新太)は「自分の娘が万引きなんかするわけがない」と娘の潔白を信じ、真相を求め行動を起こすが・・・







『新聞記者』や『MOTHER マザー』『ヤクザと家族』など、社会問題を軸にした人間ドラマを痛烈に描き出す映画製作・配給会社のスターサンズ作品。監督は『ヒメアノ~ル』等の吉田恵輔。


古田新太主演、松坂桃李が出てるくらいの前情報で鑑賞。
未見の方はあらすじも予告編も何も知らずに観た方がいいかと思います。この物語のきっかけとなる出来事が想像以上というか、想定外の衝撃な見せ方で一気に物語の世界に引き込まれましたので。
そしてエンドロール後の余韻が凄まじかった。日曜の昼前から観るような内容じゃないかもだけど、映画館で観られてよかった…。観終わってしばし放心でした。

以下、ネタバレはありませんが未見の方はご注意を…








描かれる内容は、もしかしたら誰にでも起こりえる話で、車で運転をしていて誰かを轢いてしまうかもしれないとか、被害者でもあり加害者ともいえる立場になってしまうかもとか、自分に降りかかってきたらどうしようかと考えさせられる事ばかり。

不幸にもある種の加害者となってしまった店長・青柳が心から申し訳ないと思ってTVのインタビューに誠心誠意答えるも、マスコミの“切り取り”で180度違ったコメントにされてしまうあたり「こういった事、実際にあるんだろうな…」と恐怖すら覚える感じ(それゆえこの映画は地上波で流すの難しそうだ)。


娘を突如失った父親の充も、青柳が娘に何かをしたに違いないとか、学校でいじめがあったからだと疑念を抱き、行動がエスカレートしていく様も被害者家族ながら一歩間違うと新たな加害者になってしまうような危うさがとてもリアル。



娘を失った充だが、それまで普段は娘の事にはあまり気にかけておらずその関係には“空白”があった。

娘の花音は両親が離婚したあとに父親に引き取られ、たまに母親とも会っていたが家の中では“空白”となった母親の存在が彼女に影響していたのかもしれない。

事故の加害者ともなってしまった車の運転手の女性は、事故を起こしてしまった事によりその先の自身の人生に“空白”を生み出してしまった。

そして事件のきっかけとなる出来事の青柳が見つけた万引き。鑑賞側にはそこが“空白”として提示される。


様々な空白が交錯してそれが埋めていかれるのですが、どれも胸を抉るようにグサグサと刺さってきて涙々・・・。ラストシーンまでしっかり心を持って行かれました。
そして、とある“空白”を埋めない見せ方。人によっては「何かあったのでは」と空白を残した作り、秀逸でした!





ちょっと粗暴でアブない雰囲気を持った父親の充を演じた古田新太、ドハマリでした。
松坂桃李の病んでどんどんと落ちていく雰囲気も秀逸。
何より強烈なのはスーパーで働くパート店員の草加部を演じた寺島しのぶ。出てきた瞬間から「こいつ何かあるな…」と思わせる存在感でしたが、最後まで凄まじい存在感。「こういう人いそうやなー」とありがちなキャラで嫌悪感を放出する演技、震えました。笑



今年公開の邦画、前半の初速が凄かったけど後半にこんな傑作がくるとは…。こんな映画体験もっとしたいものです。



2021/10/03(日) 109シネマズ二子玉川 シアター8 11:05回にて鑑賞。D-7
[2021-078]
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