【一人が亡くなった事故に"被害者"はいろんな意味で一人じゃない】
心を揺さぶられました。パンフによると古書店で同じような経緯で起きた交通事故がモチーフだけど、それだけではなくて。花音は万引きしたのかしてないのか、追いかけた店長が悪いのか悪くないのか…。"衝撃的"な瞬間から問いかけてきます。本作の英語タイトルは『intolerance』不寛容。「からっぽ＝空白」と結びつけるセンス。事件のきっかけの意味もあり、事件後のことを指してるなんて。
本作はキャスティングが主要役者から、脇役、最重要の役者までこの人でなければ成立しなかった、自然と涙が溢れた方ばかりです。片岡礼子さんなんて印象的で、作品のターニングポイント。田畑智子さん(三島ゆたかさん)吉田組、『his』の記憶も新しい藤原季節くんの秘めたる優しさ、寺島しのぶさんのポジションの大切さ「偽善者」と言われてしまうような役だけど。
勿論この方、古田新太さんあっての"被害者"添田。(パンフによるとソン・ガンホイメージらしい)これぞ「古田新太！」というパワハラな父親をこれでもかと演じてくれるので、その繊細な変化がこれまた絶妙な演出で。どこでラストになるのかわからないぐらい、物語が続いていく感じが本作らしさ。
こちらも"被害者"こじらせた松坂桃李くんの青柳ターンの演出も冴え渡っていた。完全に追い込まれていた時に監督がわざとあるシーンをインサートし、青柳との違いを見せるシーンの見せ方がうまかった。その流れでややこしくなるのが男と女って感じで。
マスコミ報道、ネット誹謗中傷(監督の唯一の遊び心。よく観てみてください)、シングルファーザーと娘との関係の難しさ、喪失との向き合い方。ただ暗いだけじゃない。光をもたらす人間関係。それぞれの立場に立って。添田や青柳だけでなく。それによって見えてくる景色も違う。後、言葉の力ですよね。貶めることもできるし、救うこともできる。
題材から避けることもあるかもしれませんが、吉田恵輔監督作品の中で集大成。交通事故は誰でも起こりうること、それをこれでもかと見せられます。決して他人事ではない作品を、是非。これまた不器用な人間描写が巧みな『ばしゃ馬さんとビックマウス』とか再び脚光を浴びないかな…
