アキラナウェイ

空白のアキラナウェイのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
4.1
先日、以前からコツコツ貯めていた映画のチラシを切り貼りしてコラージュにして、オリジナルポスターを作り、額に入れて部屋に飾った。

丁度空いた、三角の丁度良いスペースに、このジャケ写の土下座している松坂桃李くんがハマってくれて、個人的にめっちゃ満足。

同じ年頃の娘を持つ父親として決して他人事で観れる作品ではなかったなぁ。

スーパーの店長に万引きを咎められた女子中学生が車道に飛び出し、凄惨な事故に巻き込まれて命を落としてしまう。彼女の父親である添田(古田新太)はスーパーの店長青柳(松坂桃李)に激しい憎悪をぶつけ、事態は次第に拗れていく—— 。

一般車両に轢かれた後の少女に、追い討ちを掛けるかの様な、大型トラックで引き摺られる形での轢かれ方。

あまりに残酷で、凄惨で、壮絶で、
思わず口を手で覆い、
溢れ出そうな声を噛み殺した。

怨み、怒り、憎しみの塊を青柳に対して、執拗にぶつけ続ける添田。その行き過ぎた言動に言葉を失うが、作品を俯瞰して見ると、結局は誰が善くて誰が悪いかなんて、二元論では語れない事が解ってくる。

小説や漫画原作ありきで映画が作られる事が多い邦画業界に於いて、全くのオリジナル脚本。だからこその、他のどの作品にも類似しない、独特の余韻を残すのがこの作品の最大の特徴かと。

「嗚呼、あの作品に似ているなぁ」っていうのがない。だからこそ、心の拠り所が未だによく掴めない。

僕はこの作品とどう決着をつけたらいいのだろう。タイトルの「空白」という言葉に準(なぞら)えて考察してみる。

愛娘が亡くなった。
毎日其処にいた娘が最早いないという、添田の空白。復讐の鬼と化した添田だが、決して良い父親と言えたものではない。娘が日々抱える悩みに耳を傾ける事などなく、彼の主張は憶測の域を出ない。

父親と娘の間にあった、空白。

業務上然るべき措置をとったつもりが、とんでもない事件に発展し、モンペに絡まれ、マスコミに騒ぎ立てられる事態に陥った青柳。

「僕はどうしたらいいですか?」
逆ギレでも何でもない。もう、どうしていいかわからない。死ねばいいですか?その結論しか浮かばない。

何も考えられなくなる、
彼の頭の中を支配する空白。

青柳の勤めるスーパーのパート店員草加部(寺島しのぶ)。独自の正義感を振り翳し、周りを巻き込む劇場型中年女性。あわよくばと青柳、いや松坂桃李の唇を奪った罪は重いゾ!ボランティアに執心し、良かれと思って行動しても、周りからどう見られるかを人一倍気にしている節が窺える。

自分と周りとの温度差を感じる空白。

そして、何より。

青柳が万引きする中学生の手を掴み、事務所に連れ込んでからの描写を敢えて描かない、"空白"の時間。

其処に在るのは、中学生が轢かれて死んだという事実だけ。キャラクター達それぞれが抱える空白は、全く埋められないまま。

埋められないけど、最後の最後には
添田の中に赦しの兆しが見える。
空白の中で希望という名の色が差す。
なので、良かった。
—— 良かったのかな?

古田新太の自然体が成せるからこその恐るべき迫真の演技。追い詰められた者の危うさを見事に体現した松坂桃李の演技。偽善とも捉えられ兼ねない言動は、添田と肩を並べるモンスター、草加部を演じた寺島しのぶの演技。演者達の真に迫る姿は見事としか言いようがない。

モンスター級の演者の中で、ギアを落とした緩い雰囲気を醸し出す藤原季節と、劇中最も印象的な台詞を残した片岡礼子の存在感も印象深い。