jonajona

空白のjonajonaのネタバレレビュー・内容・結末

空白(2021年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

ギリギリ見れてほんとよかった。
娘が万引きの疑いをかけられ逃亡時に事故死。父親は怒りの矛先を咎めたスーパーの店主に向け暴走し、スーパーの店主は世間からと彼女の父親双方から責め苦に遭う。
冒頭のシーンがかなりショッキングで、監督の死生観が表れてるように思う。

現代の病とも言える『第三者の存在』が際立つ作品でした。善意の第三者、第三者に強制させられる謝罪や許容。被害者は誰なのかとことん分からなくなっていく混沌としたストーリーを描きながら、人が本当に人生で向き合うべきは何なのかを問い直す映画になっている。この映画が人生でベストという人がいてもおかしくないんじゃないかと思えるほど時代を捉えてる。
自己と他者、当事者と第三者。人は信じたいものを信じる。

最近ほんとに思ってるメディアは芸能人や犯罪者を裁くけど、メディアを裁く存在は不在じゃないか問題が色濃く背景に伺える作品で、今って非常にこわい世界だなあやっぱりと思いました。善意であれば何事も良きことなのか。

各人が当事者と他者というテーマ性の元に配置されてて、キャラが立ってたのが素晴らしかった。
寺島しのぶさんあまり好きな女優さんじゃなかったけど今作は好き。彼女の演じる善意おばさんみたいな人、本当にいるんだろうな〜というリアリティがあった。
善意と欲求の見境がなくなってる事に気付かなくなると人間やばいよね。
というか、善意ってそもそもがいい事したいっていう欲求だから、あんまり綺麗なもんでもないけどね。個人的には。
筋肉触らせて、筋肉触るというムキムキハラスメント面白かった。飲みの席での人の言葉奪うあのナチュラルに嫌〜な感じもシュールでキャラが出てて笑えた。
しかし同時に、あのムキッとポーズが逞しくも映るシーンもあり、何処まで行っても見捨てないのは自己満足の域を出ないのかと言われると如何とも言い難い。『割り切れない』というのが本作の重要な点であり、現代的なメッセージ性だと思う。煩わしいが、彼女ほど親身に店長に寄り添えるエネルギーのある人も他にいない。

主人公の父親の心を救うのが、被害者でもあり偶然の加害者でもある跳ねた運転女性の母親、という展開は予想外で、かつ彼女の放つ言葉が意表をつきながらも人間の醜さと脆さ、優しさや愛が詰まってて泣けた。娘に自分の価値観を強いて図らずも死に追いやってしまった、主人公と同じ立場になったあの人が言うから父親の心は徐々に紐解かれていく。(…と好意的に捉えてたが、あのシーンは自分の合わせ鏡のような女を見てふと我に帰ったて方がしっくり来るな。娘が死んで苦しくても世間と言う物を内在させてる彼女は謝るのが妥当、と思ってる。その僕らが抱える常識の歪さを客観的に見つめて目が覚めたという)
自分の価値観や意地を捨てて、娘の思いに近づこうと彼女の専攻してた油絵を真似たり、少女漫画を読む様にぐっときた。
うちの父親も別居されてから、母の真似事をして急に料理し始めて母に豚汁を送り付けたりしていたのだが、おそらくこういう事なのだろう。ところで古田新太の泣き顔のインパクトよ、どんどんカエルみたいになってくね。

割り切れない思いを、割り切らない、として抱える事を受け入れた父親に帰ってきた、あまりに鮮やかなかつての思い出、記憶、確かなつながりにどうしようもなく泣かされた。

また監督の過去作に照らしてみても、ヒメアノ〜ルの狂気的バイオレンスが鮮烈に焼き付いてるこちらの予想を巧みに裏切る展開になっており、追いかけてきて間違いではなかったと気持ちにさせられる。意図せずがしれないが面白かった。自分の興味や武器と、求められてる面白さを両立させる手腕の高さが羨ましい。

欲を言えば、松坂桃李のスーパー店長が本来どういう人間だったのかだけ不鮮明だったのが少し気になった。
万引き現場に関して引きで取り本当になにが起きたのか?は見せない選択はまさに『空白』を生んでてテーマに誠実で素晴らしかた。

○小道具の使い方○
絵ーイルカみたいな雲の絵。さりげなくこの映画で唯一心が緩むシーンで微笑ましく登場し、最後に美しく結ぶ。同じものを見ていた。

マニキュアー本作の発端。透明のマニキュアだったことが、彼女から父親に本心を打ち明けられない=見えないことを暗示してる。

〜今日の名言〜
あの子は脆い子でした。不出来な娘です。ですが、本当に優しい娘だったんです。どうかあの子を許してやってくれませんか…申し訳ありませんでした。

みんなどうやって
折り合いつけてんだろうな…
jonajona

jonajona