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空白のCOLORofCINEMAのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
4.2
●英タイトル「Intolerance」と示すように「不寛容さ」について語られた映画。
100年以上前に撮られたD・W・グリフィス監督同タイトル作品も迫害や無実の罪を起こす心の狭さが描かれていた。
しかし、本作、ほのかに心が変わる瞬間も過ぎり、そこは閉塞感からの出口で実はヒントなのかもしれない。
「寛容さ」「赦し」への道標。

(ここより内容に触れています)

●「負の連鎖」とも違う「落とし所」「怒りの納め所」が、わからぬが故の添田充(古田新太)の「あたり散らし」「拳のふるい方」は、周囲までをも歪め始めてしまう。その描き方の容赦なさ。
●「普段から、ボランティアもしてるし、ちゃんとして生きてます」と周囲に「善意の押し売り」と受け取られない空気を醸し出しているスーパーアオヤギのパート店員、草加部麻子(寺島しのぶ)。
店長・青柳(松坂桃李)をずっと気にかけている(というよりも気がある。腕、しっかりしてるよぉ~と触りにいくシーン。困った青柳の反応)。その割に同僚の店員には、ボランティアを手伝ってもらってるにもかかわらず態度が厳しい。
●当事者でない人、特に学校側の対応。もしかするとそんな話はなかったかもしれないのに「以前、卒業生のお姉さんが、あそこのスーパーで痴漢に云々」と嘘でもなんでもよいから火の粉を払うような言動も。
●添田の元妻・松本翔子を田畑智子。
吉田恵輔監督『さんかく』以来11年ぶりの出演。
●添田を目覚めさせるのは、事故を起こした(呵責の念から、というよりも真面目な気質から自殺してしまう)娘の母親(片岡礼子)からの「娘を許してやってはもらえませんか」という、愛情の籠もった言葉。その態度。
●それを機に物語は少し転調する。
「自分は娘のことを何も知らなかったんじゃないのか」

●誰かは知らないところで見てくれている。
(ここ、本作で最も好きなシーン)
青柳を救う言葉が全く予想もしないところからかけられる。
スーパーを閉め工事現場の警備員をしている。
通りがかった若いトラック運転手。
「あの、すいません」
「スーパーアオヤギの店長さんですよね」
「店長の唐揚げ弁当、俺、好きだったんスよ」
「また、弁当屋さんでも始めてくださいよ。そしたら、俺、買いに行きますから」
「おつかれさまでした」
●その青柳を慕い同じ船に乗って漁師をする野木(藤原季節)
(彼も非常に良い)
「俺、充さんが父親だったらキツイッすわ」
そう言いながらも実は一番気を遣って添田のことを見守っている。ラスト近くでわかることは父親がひとりで海に出て亡くなっていたということ。手を怪我した上に漁を続ける添田をまた失いたくないということ。
●終盤。タクシーの中での3人。
添田、翔子、野木。
「みんな、どうやって折り合いつけるのかなぁ」
射し込む光が美しい。
●そして、ラスト。
娘・花音と同じ雲を見ていたことを知る、添田。
その表情。

●前作『BLUE/ブルー』同様、上映時間が同じ107分。
近年の他映画からすれば短い。しかし、観客への台詞などで説明しきらない想像の余白、静かな余韻を残してくれる秀作。
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