銀幕短評(#605)
「空白」
2021年、日本。1時間47分。
総合評価 73点。
逆縁(ぎゃくえん)については、「人魚の眠る家」66点 で触れました。
執着(しゅうじゃく、しゅうちゃく)、つまりものごとに強くとらわれること、それについては「愛しのアイリーン」76点 で触れました。
「ものごとに適度に取り組み、結果の成否を納得して健全に受け入れられるうちはいい。執着が高じると、そのものごとを自分がコントロールせずにはいられなくなる。ほかのことは目に入らない。その結果、まわりのひとを傷つける、あつれきを生む。不幸なことです」、と。
このものがたりでは、つよい執着をもつひとが出てきます。それらのひとは実直な人、つまり誠実で正直なひとを相手に、野放図な火を吐きかけます。かれらはじぶんが執着する対象のためであるなら、その目的を達するためであるなら、手段をまったくえらばない。
しかし実直なひとたちは、実直であるがゆえに かれらのその野放図な火から わが身をよけるすべを知らない。自分の実直を守ってしまう。つまり実直さに執着しているともいえる。いきおい、その火に身を焦(こ)がされてしまいます。
おたがいが実直なひとどうしであれば、もし不幸に見舞われたとしても、かれらは静かに支えあい励ましあえるかもしれない。しかし世の中はなかなかそういうわけにはいかない。執着するひとでこの世があふれることはないでしょうが、だれしも(わたしも)なにかに執着しているのが現実社会だといえます。
いちばん大切なところは、非常時に直面したら 自分を一瞬でも俯瞰(ふかん)することだと思います。ああいまおれは○○に執着しているなあ、わたしは○○の未練にまみれているなあ、と。そうして意図的に非常ブレーキをふむことです。そうするとあたまのなかに「空白」をつくることができる。その空白を総動員してなにかを考え出す。それしかないですね。