西木寸

空白の西木寸のレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
4.5
吉田恵輔監督の真骨頂、「主観」と「主観」のすれ違いから来る、人間関係の曖昧さや危うさが、シリアス方面にチューニングされた大傑作。

日本版の『スリー・ビルボード』で、不完全な人間だからこその噛み合わなさと負の連鎖が、終始ヒリヒリさせる。本当辛い...

ただ「不条理さ」があるのと同様に、フラットに「救い」も確かに存在し得て、それが辛うじて見つかるバランスもたまらない。

この映画が傑作たる所以の一つが、豊かな人物の描き方にもある。

まず、主演2人が素晴らしい。
松坂桃李演じる店長の罪悪感、古田新太の横暴さと不寛容。それらの裏には自己防衛的な感情もあって、それがめちゃくちゃ共感できるあげく、物語をより複雑に泥沼化していく。

そして、主演2人だけの映画じゃない。
事故とその後の展開に巻き込まれた人達を群像劇的に描いていて、それぞれ全く異なる観点で痛く辛い。
店長を懸命にサポートするパート、不運に事故の運転手になった女性とその母、暴走する父の部下、そして学校の担任。
全員の主観を感じられ、感情を乗せられるのが素晴らしい。

だからこそ...辛い。
どうしてこうなったか。
西木寸

西木寸