寝るのだいじ

空白の寝るのだいじのネタバレレビュー・内容・結末

空白(2021年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

人間の心の複雑さが露骨に描かれた、実話ベースの話。ただただ辛い。

<人間関係と連鎖>
·主体性などと言い、真面目で大人しいだけの生徒(漁師の娘)を追い詰めた担任教師。
→追い詰めてしまう発言をしてしまったことに気づいたものの、学校側は隠蔽に徹する。
·漁師:父親は職人気質の堅物。
→自分は全て正しいと思うことで自我を保っており、本当は娘のことを愛している寂しい人。故に冷静さは無く八つ当たりが激しい。
·離婚した母だけが話せる相手だが、一緒に暮らしている父親は乱暴な性格で向き合ってくれず、自分の存在価値を感じることができず辛くなった娘。
→父親の気を引きたかったのか、ストレスでやってしまったのかスーパーでマニキュアを万引き。
·万引き現場に出くわし、追いかけるという普通の対応しただけの店長。
→追いかけると、不慮の事故で娘は跳ねられて死亡。
·スーパーのパート独身おばさん。
→店長を色目で見ている。誰もパートナーとして選んでくれないからか、ボランティア活動に精を出し「自分は正しい」と肯定しようと必死。
·娘を車で跳ねた女性。
→自責の念で自害。その母親がひたすらに謝る。
·父親の船の弟子。
→両親を失くしているからか、ずっと気難しい親分を気にかけていた優しい人。親分も不器用ながらに心を開いている相手。

<所感>
事ある毎に辛くてわんわんと泣いてしまった。
誰も間違えておらず、起こり得るアクシデントの連鎖での地獄がある。

·ただなぜここまで娘が追い詰められてしまう結果になったのかが、この作品で伝えたかった問題点のようにも思う。
→思春期は多感な時期であり、信頼を置ける相手を慎重に選ぶ。故に家族が向き合ってくれなかったことや、過去からもきっと浴びされてきた担任教師の未熟さからくる責める発言が、誰も認めてくれないと感じさせたように見てとれた。
スマホを与えて連絡をとれるように便宜を図った母親は、再婚し子供を作った。不倫で離婚したと考えると、スマホを与えたのは偽善者だし、堅物夫が嫌だったのなら何故親権を夫にしたのか疑問である。

·「自分は正しい」「あなたは正しい」そう思うのは人それぞれだが、その善意が相手を追い詰めてしまうこと、そこに恋愛感情など特別な感情もあると余計に相手を潰すことになる。自分が助かりたい為だけにすり寄って「正しい」と言うのは、言われた方は受け取りたくないし、言う本人(パートおばさん)も苦しく、その軋轢で本人壊れていく姿が印象的だった。

·スーパーの店長は、父親から譲り受けたお店を経営している真面目な人である。見ている人はきちんと見てくれていて、スーパー畳んだ後に道端で「またあの弁当食べたいっす」と声をかけてくれた人もいた。本物の善意や見方は無言であるが、実は多数であり、この通りすがりの人のように声をかけてくれる人は大変貴重で勇気があるなと思う。

·漁師の弟子の姿が、本当の優しさなんだなと学んだ。疑心暗鬼で八つ当たりしまくる漁師に「あなたが俺の親ならきついっす」と突き放したこと、他の船に移籍以降も漁師を追うメディアを追い返したり、陰ながら見守って必要な時は尽力していた。
心を開く、人を許す、娘と向き合うことで変化していく漁師の姿から、その船に戻ることを決心したこと、人間愛が深い人だった。


思うことは多々あるが、どんな人も大切で尊くて、だからこそこんなにも辛い気持ちにさせてくれる良い作品なのだと確信できた。
実話ベースというのがなんとも苦しく、どんな子供も見放されない世界を願っている。