カタパルトスープレックス

日本海大海戦のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

日本海大海戦(1969年製作の映画)
3.5
「東宝8.15シリーズ」の第三作目です。監督は前作『連合艦隊司令長官 山本五十六』(1968年)に引き続き戦争映画を得意とした丸山誠二監督。円谷英二が特技監督として最後に手がけた作品でもあります。特撮だけはとても観る価値のある映画です。

「東宝8.15シリーズ」は太平洋戦争を舞台にした作品がほとんどですが(だから終戦の8.15です)、本作だけ日露戦争が舞台となっています。太平洋戦争と日露戦争は繋がっているから納得感があります。日露戦争から軍部の暴走がはじまって歯止めが効かなくなってしまったのが通説です。

さて、本作も同じ東宝の「ゴジラシリーズ」と同様で人間のドラマパートと特撮の戦闘パートに分けることができます。前作の特撮パートは空中戦が主体でしたが、本作では艦隊戦が主体となっています。しかも、日露戦争当時の戦艦ですから、すごく重厚感がある。蒸気で動いてる!って感じがすごくいいです。円谷英二の特撮ってウルトラマンとかゴジラより、戦争映画の方がカッコいいですよね。それだけで観る価値があると思います。

ドラマパートはバルチック艦隊を迎え撃つ東郷平八郎(三船敏郎)率いる連合艦隊と旅順要塞を攻略する乃木希典(笠智衆)率いる陸軍の戦いがメインとなっています。あまり人間ドラマはなく、ひたすら戦闘。旅順攻略はすごく激しい戦いだったらしく、他にも『二百三高地』(1980年)など映画の舞台となることが多いですよね。人がバッタバッタ死んでいく。

とりあえず史実を忠実に映像化した作品と言えます。映画としては特撮は白眉です。ただ、ドラマとしては(史実を知っていれば)あまりドラマティックな演出もなく、淡々と進んでいく印象でした。

東郷平八郎と乃木希典はそれぞれ海軍と陸軍のレジェンドなので、ヒーローとして描かないといけないってのは理解できます。ただ、太平洋戦争の泥沼に足を突っ込むきっかけとなった戦争。だからこそ、「東宝8.15シリーズ」の第三作目に選んだはず。最後にアメリカと戦う兆しを見せるものの、軍部が暴走する様は描ききれていません。そのため、「東宝8.15シリーズ」の作品としては中途半端な印象です。うーん、これやる必要あった?って感じ。日比谷焼打事件(日露戦争の講和条約ポーツマス条約に反対する国民集会)まで描いて不穏な空気の中で終わったらもっと印象は違っていたかも。

ただ、円谷英二による艦隊戦は素晴らしいので、それだけでも観る価値はあるかなと。