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横須賀綺譚のおむぼのレビュー・感想・評価

横須賀綺譚(2019年製作の映画)
4.3
証券会社に務める主人公が、ふと認知症の兆候のある老人への詐欺まがいの証券の契約を許せなくなったことから始まり、東日本大震災のPTSDによる記憶喪失と、太平洋戦争の世代の記憶への執着、そして誰も見ていなかった罪の告白という、記憶の忘却がこの映画の主題である。
そして、時間が経ったら誰かが、或いは自分がしでかしたことに対し、すっかり忘れたり乗り越えるなどと綺麗な言葉を使ったりして無かったことにしてしまうことに恐れを抱くべきなのだという意志を強く感じた。

単純な勧善懲悪でこの物語を見れば、作中では記憶を失った人を騙すのは人道から外れているという思いの戸田が善で、辛いことは全て忘れておけば良いのだと知華子を支配する川島が悪であるが、視点を変えれば、震災の時に昔の幼馴染みの知華子を救助しようと実際に行動したのが川島であり、戸田は昔の恋人など完全に忘却していた側である。
その点に関して、大塚監督が横浜シネマリン最終日の舞台挨拶で話していたように、撮り始めたうちは戸田に対しての感情移入が強かったが、進めるにつれて川島への感情移入のほうが強くなったという通りで、感じた意志とは真反対の忘れてくれと他人に言いたいような過去を隠したがる人間の弱い心にも共感できるような欲望と気怠さと熱さが絡み合った芝居(主に浜辺で戸田に帰ってくれと言うシーンと罪の独白)で、それが良いと思った。

法律だとか世間の目といった大衆的な意味でのひとつの視点では善い人と悪い人を分別するが、それに関わらず誰もが自分の中の欲望や正義が絡み合った結果、何か歪んでいるものが人間であるという核心を突くこと。
横須賀米軍基地の祭りをゲリラで撮影したこと。
唐突に描かれているように見えて、これからもまた同じことを繰り返していくというやるせなさを込めた意味合いの終わり方。
これらの要素がすごくアメリカン・ニューシネマを思い出して、好きだった。
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