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ミッドサマー ディレクターズカット版のnowstickのレビュー・感想・評価

3.5
「前衛的」「衝撃的」という触れ込みを聞いて見たのだが、かなり肩透かしを食らってしまった。確かに映画の中で起きている出来事は「衝撃的」だったかもしれないが、「映画それ自体」は衝撃的でも前衛的でもなく、割と普通だった。
本作の映画の中で起きている事が、現実の社会で起きていたとすると、国連が動くようなセンセーショナルな話かもしれないが、映画の中では「殺人」や「戦争」といった「衝撃的」な事が起こるのは当然と言えば当然だろう。

映画の中盤で突然、強烈な出来事が起きて、確かにその瞬間は少しは衝撃的だったかも知れないが、冒頭から映画全体に不穏な空気を漂わせていたし、その中盤の出来事以降に起きる内容は全て「まあ、さっきの展開が起こり得る世界線なら、これぐらいの事も当然、起きるだろうな」と思えるような内容だった。よって映画の構成としては、かなり真っ当と言えるだろう。
意味を暗示するようなラストもキューブリックやスコセッシが昔からやっていた手法だし、主人公の最後の選択としても、それまでの行動パターンや精神状態からすると、まあ、あり得る話だと思う。

本作を見て分かった事は、同時代の観客に受け入れられている中で「前衛的」と言われる作品は、大して前衛的では無いのだろう、ということだ。大衆が衝撃を受けながらも嫌悪感を抱かずに最後まで見てくれるラインはこのぐらいで、かなり限界がある事が分かった。
また、SNSによって以前よりもユーザーが作品を見つけやすくなった現代においても、芸術映画とビジネスのバランスはすこぶる悪いということだ。ある程度ビジネスとして成立させる方を取ると、どうしても芸術としての側面は薄れてしまうのだろう。

というわけで、「映画によって衝撃的な体験をしたい」と何となく思っている人には、本作はある程度薦められるだろう。
しかし、「そもそもテーマが理解できない映画」「途中からストーリーが追えなくなる映画」「途中で世界線のプロトコルが急に変わる映画」「脚本の構成がどう考えても間違っている映画」「主人公の行動理念が全く分からない映画」の方がよっぽど衝撃的だろう、とか思う人にとっては、普通の映画だと思って見に行った方がいいだろう。
色々言ったが、いずれにせよ、そこまで見ていて退屈する事はないと思う。
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