木蘭

海を待ちながらの木蘭のレビュー・感想・評価

海を待ちながら(2012年製作の映画)
3.8
 真っ青な空と乾ききった黄土色の大地に、奇異で人為的な構造物が建ち、その中を色鮮やかな装いの男女と乗り物が縦横無尽に飛び跳ねながら描かれる・・・失われた魂を求めて神の国へと巡礼する男を描いた物語。

 監督の作品は『ルナ・パパ』しか見た事がなかったので、ナンセンスコメディ的なドタバタ劇で描かれる寓話かと思えば、寓話なのだがもう少しシリアスで、より神話的な作品だった。
 物語としては静かな切ない話で、何かカタルシスを得るのでは無く、魂の救済を求めたジンワリと染み入る様な映画。

 とはいえ劇中のテンションは高く、人や物の躍動感は流石で、オープニングの貨物車のスイカの山の上で二人が交わる様は言葉にならないエネルギーを感じて、一寸なんだか分からないが涙が出てしまった。
 そして空気までもが躍動している(風が強いという事だけど)なか、中年男たちがサイドカーに乗って爆走するシーンは、凄く楽しそう。

 そんな一寸した乗り物映画として楽しめるほど、現代的な車両に混じって、レトロなソ連時代の列車や船、車やバイクが動いているのを眺めるのは眼福かな。
 『ルナ・パパ』では兵士を積載した装甲車が砂漠を爆走していたが、今回は『MADMAX』感のある馬賊風暴走族やトラックの爆走が観れて楽しい。

 監督はタジキスタン人だが、恐らく撮影はカザフスタンなんだろう。
 キャストの多くはヒロインの父親をはじめカザフスタン人の俳優で、モブキャラもトルコ系やモンゴル系の顔だが、主人公役はロシア人、ヒロインはモルダヴィア生まれのロシア人(出身地のベンデルは現在、モルドバ内の沿ドニエストル共和国のテリトリー)、主人公の友人で港の管制官はドイツ人が演じている。
 中央アジア的なコスモポリタンな世界だな・・・と思うが、よく考えたらロシア帝国/ソ連邦的な世界なんだよな・・・。
木蘭

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