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Swallow/スワロウのslowのネタバレレビュー・内容・結末

Swallow/スワロウ(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

これ妻(妊婦)がストレスから異食症となる物語として観てしまうと、ラストの展開が唐突に感じられると思う。ここに書くのは自分なりの解釈であり、少し他の方とは違う見方をしてしまっている可能性も。それはいつものことだけど、不快に思われる方もいらっしゃるかもしれない。これは異食症というものをメインにした物語というよりは、それに絡めて彼女が彼女の出生にまつわることと、これまでの人生に対し折り合いをつけようとする物語。
真実を知ってからというもの、生まれて来てはいけなかったのではないかと自らを卑下し、どこか自嘲的に生きて来たハンター。当然ながら、彼女自身には何の落ち度もない。ないはずなのに、大人になり、社会に出て、彼女の中の不安因子は膨らみ続けていた。食べてはならない異物を飲み込み(あってはならない強姦、そして妊娠)、それを体外へと出す行為(出産)。異食症の症状は、受け入れ難い自身のルーツとどこか重なる。見方によっては擬似出産のようでもある。ではなぜこのような行動をとるのだろう。ハンターは理想に描いた自分(幸せ)になるためにリッチーに近付きセレブ妻の座を射止めたけれど、そこで得られた実感は思い描いていたものとは異なるものだったのではないか。そんな時、異食症がハンターに齎したもの。飲み込むものは強い金属や美しい石を選り好む傾向があり、最後に大事にそれを取り上げ嬉々としてコレクションにする。無事に生まれたそれらを眺め自らと重ねることで、自信や幸福感を得られたのではないだろうか。そんな風に見える。結婚生活で得られなかったもの(人生の肯定かな)をハンターは手に入れ、止められなくなったのだ。ラストまで観ると、本作には家父長制、男尊女卑、宗教観(ここではこれが一番厄介?)などの圧力によって、中絶という選択が奪われることがあってはならないというメッセージがあったのではないかとも思えてくる。不用意な性行為で妊娠、または望まない妊娠をすることもあるだろう。その上で事情がありとても育てられる環境にないという人もいるだろう。もちろん、このような状況でお腹の子を生かすことが間違っているということでもない。ただお腹の子ファーストだけではなく、女性自身の安全や意思を尊重した上での選択があってもいいのではないかということ。生まれたからには幸せを目指さなければならない。しかし、彼女が背負って来たものは決して軽くはなかったはずだ。最後にハンターは愛せなくなった夫、というか、そもそも愛してもいなかった気もする夫の子をどうするかという局面に立たされ、静かに決断を下す。それは過去の自分と対峙して決めたことなのだろうと思う。産むことが当たり前で、それを応援する作品は数あれど、こういう命の重さ尊さで押し通すでもなく、感動話で誤魔化すでもない、そうではない選択があってもいいと否定をせずにいてくれる作品はあまり観たことがなかったかもしれない。
これは『82年生まれ、キム・ジヨン』『はちどり』などを観た後と似たような気持ちになったし、少しだけ『生きてるだけで、愛』を思い出させる部分もあった。でも表現の仕方はどれとも違っていて、本当独特なアプローチだったと思う。それにしても、ヘイリー・ベネットが良かった。ジャケットを見た時点でジェニファー・ローレンスに似ていると思っていたけれど、鑑賞中はミシェル・ウィリアムズぽく見える時もあって、不思議な魅力を放っていた(とは言え何作か出演作観ていたのに全然おぼえていなくてごめんなさい…)。あと、エンディング曲Alana Yorkeの『Anthem』が良すぎた。何回も聴いたよ。
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