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Swallow/スワロウのレントのネタバレレビュー・内容・結末

Swallow/スワロウ(2019年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

自己肯定の旅。スワロウ(飲み込む)とは…

自らの不幸な出自に対峙し、自己肯定に大半が費やされてきた人生。こんな自分を受け入れてくれたのはよりにもよって富裕層の家族。しかし彼女は所詮籠の鳥、跡継ぎ息子の「妻」、そのまた将来の跡継ぎを産んで育てる「母親」でしかなく、彼女に対して一人の人間として向き合う者は誰ひとりいない。むしろそんな家族だからこそ彼女の人となりに興味なかったのかも知れないが。
自らを肯定しようと生きてきた彼女にとっては、自分を一人の人間として認めてくれないこの一家での暮らしは耐え難く、いつしか奇異な衝動に駆られてゆく。それは異物を飲み込むことで精神のバランスを得ようとするものだった。
危険な行為を家族は止めようとするが、それが彼女の身を心配してではないことは明らかであり、彼女の選択肢は一つしかない。
自己の出自に対してすでに吹っ切れてると話す彼女。だがそれは欺瞞であり、親に愛されて育ったというのも欺瞞であった。
ただ、古い戒律に逆らえずに出産した彼女の母に本当の愛があっただろうか。レイプの結果出来た我が子を生まれた理由など関係なく、自分が身ごもった子供だからと愛情を注いで育てたのなら、彼女自身は自己肯定にここまで苦しまなかったはずだし、娘が救いを求めてきたなら無条件で受け入れたであろう。
実の母にも落胆し、彼女が向かったのは母をレイプした実の父親のところであった。そこで彼女は父と、そして自分の出自とに対峙する。そこでやっと彼女の自己肯定の旅は終わりを遂げる。

母は自らをがんじがらめにする古い戒律から、自分を出産せねばならなかったことに対し、彼女は自己を縛るものからの解放のために堕胎をする。そうして彼女は解放されるのだった。

女性は子供を産む機械などという発言が物議をかもしたことがあった、そしてアメリカ最高裁での堕胎を禁ずる判決。なにか女性の意思は二の次三の次になってしまっている社会。確かに人を産むことは尊い、生まれてくるはずの命を尊ぶのはわかるが、肝心の女性の意思がないがしろにされてないだろうか。そのような社会の風潮が女性たちをがんじがらめに縛り付けてきたのではないだろうか。


受け入れられない自らの現実を受け入れざるを得ない(飲み込まざるを得ない)ことが人生には起こりうる。本作はそれをスリリングに描いた佳作だった。
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