おばけシューター

Swallow/スワロウのおばけシューターのレビュー・感想・評価

Swallow/スワロウ(2019年製作の映画)
4.3
終盤、異食症の主人公ハンターがいよいよ自動車を食べることになり、乗ったり降りたりしながらどう切り分けるか考えながら炭火で炙ったらボンネットがパカって開いて、結局乗ってる人ごと丸呑みにして胃の中からJAF呼ばれたシーンは最高にアガる。


真面目に、超面白かった!間違いなく傑作。
悪いところが無いというより、好きなところが多すぎる本当に愛おしい作品。

異物を飲み込むことに取り憑かれた妊婦という奇抜でグロテスクな設定ではあるが、それでどうこうと言うレベルの作品じゃなかった。
女性が自分の力で立ち上がるまでの、とっても力強いストーリー。

それを象徴するエンディングは、すべての女性のささやかな再出発を祝福しているように感じ、そこだけ見ればなんてことないシーンなのにめちゃくちゃ泣ける。Alana Yorke のAnthem聴くだけで泣ける。

まず、自分がここまでハマった要因として、洗練された美術と音響は外せない!建物や構図もこだわりを感じますが、特にものを口に入れるカットはどれも素晴らしい!
うっとりと真珠を眺めるようにガラス玉をみつめるハンターの目に映るガラスの赤。ここホント綺麗。
ビー玉を口に入れるときの「カロ…」という音の生々しさ。子どもの頃くちの中にガラス玉を転がしたあのときの感覚を思い出したい、でもビー玉がない!そんな時にバッチリですね。

で、異食症のきっかけとなった氷を口に入れるシーンは、ここは露骨に無視された彼女が初めて注目を浴びた場面になっています。
つまりあの氷を噛み砕く音こそ、彼女の発したはじめての声だった。それで、自己表現として確立してしまったように思う。
そしてこの氷が、これまた宝石か甘露のように美しく、誘うように静かに揺らぎ輝く。しかし逆にその美しさが、異物という印象を強く与えてきて、後から思うと氷というチョイスは絶妙だった!

異食症の要因は、のちに明らかになる真実とは別に夫や家族からの抑圧もあることは間違いないが義母の詰め方が凄くて、結構初っ端から「本当に幸せ?」「上手くいくコツはできるフリをすること」とかなりストレートに理解者として振る舞う。

そう、理解してくれているんです!見抜かれている!これによっていよいよ彼女に残された場所が無くなっていくというね。

そしてなにかと親切心でかまってくるのは、妊婦の方が受けるハラスメントの典型でしょう。ここの一家は跡取りの心配しかしてないでしょうが、現実にも余計なアドバイスをくれる人いますもんね。

飲み込んだビー玉を取り出すカット、直後に映る胎盤の映像とそっくりでした。たしかに、飲み込むよりも、出すときの方が苦しそう…。
そんな吐き出す場所のトイレが残された安息の地となっていく訳ですが、これがあのラストシーンに繋がるわけですね。

結構言及されてる方が多いですが、土たべるとこいいですよね。半ば放心でベッドに直接土を盛り、だらしない格好で土を貪る。しかも、結構たべる(笑)


本編とは無関係ですが、監督は祖母が手を洗い続ける強迫性障害で結局ロボトミー手術を受けさせられ、嗅覚を失ったんだとか。。これが長編初(!)ですが、恐らくずっと練っていた脚本でしょう。そんな経験を、ここまで美しい物語に昇華した監督に敬意を込めて、ふざけたコメントは最初だけにしました。ちんちん。

おわり