このレビューはネタバレを含みます
「異物を食べる」「スリラー」というワードで、勝手に異物を食べることによって引き起こされる悲劇とバッドエンドを想像してたけど全く違いました。
良い話だった、すみません。
間違った行いで生まれた子は間違っているのか。
素敵な夫(笑)と素敵な義両親(笑)と「誰もが羨む幸せな生活」を送っていた主人公がストレスから異食症になり、症状を治すために最初は形ばかりの協力をしていた夫たちだが我慢できなくなった主人公が逃げ出し、いよいよ本当の自分の人生を歩みだすお話し。
多分主人公は最初から夫の生きてきた世界と自分が生きてきた世界は違くて、幸せになれるはずがないことに気づいてたよね。
それでも、レイプによって生まれた自分が誇りをもって生きるために正しいことをしていると思い込みたかったんだろうな。
子どもができたこと自体は嬉しかったかもしれないけど、同時に自分がずっと押し殺して来た暗くどろどろした衝動と向き合わなくちゃいけなくなっちゃった。
最初にガラス玉を選んだのはレイプによって生まれた汚い自分って意識がずっとあったから綺麗なものを取り込みたかったのかなって。
次に選んだピンは自分自身への破壊衝動だろうと思ったけど、二つ目なのに飛ばすなぁと思ってしまった。笑
それだけ衝動を抱えていたんだろうな。
異物を呑み込む=誰もしないようなことをする、ってことで自信がつくと言うのはわかる気がする。
作中では特にそういう暗示はなかったけど、中絶などありえない家庭で育った主人公は異物を呑み込むことでワンチャン腹の子をなかったことにできれば…とも思ったのかな。
あまり主人公の心情がはっきりと明言されるシーンは少なかったように感じる。
誰一人、彼女に正しく寄り添えていない。
でもハンターに本当に彼女が望む形で寄り添うのはかなり難しいのかも。
彼女も終盤まで彼女自身をよくわかっていないから。
施設に入居するためにサインを求められるシーンで、義母が「赤ちゃんが生まれるまでの間だから」って言うけど、生まれたら母体はいらないってかこのクソババア。お前だってみじめな高慢ちきババアなんだからな。
義父も作中ずっと息子に対し「こんな女選びやがって」って雰囲気出してくるし。お前らのせいでこうなってるんやぞ。
女優さんの危なげな雰囲気がすごい良くて、ギリギリのバランスでなんとか自分を保っているというのがひしひしと伝わる。
ちゃんと寄り添っていた(役目を果たしていた)のはあのお手伝いさんだけだった。
彼は責任を感じただろうな。施設行は自分が目を離したせいだと。
だから、最後まできちんと責任を取って主人公の逃亡を手伝った。
こんな言い方あれだけど、戦争で心を病む暇もなかった彼にとって、一生懸命心と向き合っている、心に振り回されてる主人公は少し羨ましく見えたんじゃないかな。羨ましくて美しくて尊く見えたと思う。
ハンターは死にたいわけじゃないのがまた人間臭い。
自尊心を保つために異食をしてる。自傷行為じゃない。
生きたいから異物を食べてる。最高。人間ならでは。
ハンターが逃げた先のモーテルで旦那に電話をするシーン。
旦那はもう自分の体裁でしか発言してなくて気持ち悪い。
流石あの父親の子供。しっかり下衆が受け継がれていて素晴らしい。
高慢ちきな下衆共のせいで、可哀そうな子のレッテルを押し殺していた子が本当に可哀そうな女になってしまったのに、その責任に微塵も気づいてない。
最期のトイレのシーンからのエンディング。
ハンターは社会で「普通の人」として生きていくことを決断したのだろう
と予測した。それが上手くいっても行かなくても、挑戦しようと思ったんだろうと。
本当の父親と対峙し、中絶をして母親の思想から逃れ、夫たちと縁を切ったことによりコンプレックスの塊だった自分を捨て、普通の人として生きる選択をした主人公。
遅かれ早かれ彼女は壊れてたし、そのきっかけがたまたま結婚だったんだろうね。
いつかはすべてと向き合わなくてはいけないこと、彼女はわかってただろうね。
彼女の母親よりも、レイプ犯の父親のほうが彼女の背中を押すのに必要な
存在だった。
誰しも何かしら抱えているこの世界で、普通に生きるって最上級の幸せだよね。
素敵な映画でした。