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暁前の決断のmat9215のレビュー・感想・評価

暁前の決断(1951年製作の映画)
4.0
サスペンス大王のアナトール・リトヴァクは台詞に頼らない。アメリカ軍の基地で働くフランス女とドイツ兵のオスカー・ウェルナーが交わす愛の視線の強さ。あるいは、ヒトラーユーゲントの少年が、物陰に潜むリチャード・ベースハートと視線を交わした後の暗がりを見据える眼差しの強さ。少年がなぜ不審人物を見逃したのか、その説明はない。オスカー・ウェルナーが前線指揮官の大佐と過ごす場面も最小限度の形式的な台詞以外は語られない。密度の濃い時間となっている。あと、検問に配布されている要注意人物リストに刻印されたでっかい数字が効果的だ。なお、ミュンヘン、ニュールンベルグ、ビュルスブルグには行ったことがある。ドイツの大都市は古く見えても、じつは第二次大戦で破壊された都市を破壊前の姿に再現した新しいものなのだ。

リトヴァクはキエフに生まれ、レニングラード、ベルリン、パリ、そしてハリウッドで映画を撮った。国境を越えて映画を撮ってしまう典型的な亡命者というか越境者。ペヨトル工房の雑誌『夜想』には「亡命者たちのハリウッド」という特集号があり、蓮實重彦責任編集の雑誌『リュミエール』には「映画は越境する」という特集号があった。
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