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100日間生きたワニのambiorixのレビュー・感想・評価

100日間生きたワニ(2021年製作の映画)
2.8
見たいか見たくないかで言えば見たいが金を払ってまでは見たくない映画のランキングを作ればわりと上位の方に入るであろう『100日間生きたワニ』がアマプラに堕ちてきたので早速見てみた。なんだけど実は俺、原作の100ワニを1ページたりとも読んだことがない。そもそも原作が完結するまでこれが漫画だということすら知らず、動物園やなんかで飼ってるワニを固定キャメラで定点観測してしかるのちにぶっ殺す、みたいなYouTubeの悪趣味企画だと思ってたもんな(笑)。そんな具合だからその後に沸き起こった電通のステマ疑惑騒動にも乗っかりようがなかったし、そういう意味でいえば俺以上に本作を「その辺によくある大コケクソ映画」ぐらいのフラットな視点で視聴できる人材もまたといないと思うのだが、じゃあそんな人間から見てこの作品はどうだったのかというと、思ったよりひどくはなかった。
本作のわかりやすい見どころは、「前半部でワニが死ぬまでの日常を描き、後半部でワニの死後に残された彼の友人たちを描く」という、黒澤明の『生きる』のような構成をとっている点。そして、ワニの死から立ち直ることができない友人たちの喪失感を後半部に初登場するカエルの視点でもって浮き彫りにしていく、という語り口をとっている点だろうか。良くも悪くもおおむねこの二点をメインにして語るしかないと思うんだけど、両方とも原作にはない映画のオリジナル要素だと聞いてびっくりしてしまった。
でも実際に二部仕立てのアイデアというのはわりかしよく考えられているんだよ。前半パートの死ぬほど退屈でクソつまんねえ日常描写が後半パートに入って以降はボディブローのように効いてくる。これから1000回は食うんだろうな、なんつってゲラゲラ笑い合っていたラーメン屋の閉店。絶対に観に行こうねと約束していた映画の続編、けれども本来ならワニが座るはずだったその場所には知らない別の誰かが座っている。このどうしようもない不在の感覚を野暮ったい説明台詞ではなく画面の力でポーンと突き放して見せる。ここは上手いんだよね。思わずほろりときてしまった。
映画オリジナルキャラクターのカエルに関して言うと、はじめは好感のもてる人物として描かれておらず、「いくらなんでも人との距離の取り方がおかしすぎるだろ」とか「仲間の喪失感を演出する役割をこいつにだけ押し付けているんじゃあないよ」などと罵詈雑言を浴びせたくなるのも事実なんだけど、最後の方でこのカエルもワニの友人たちとはまた違ったベクトルで何かしらの欠落を心に抱えていたことがわかる。でもって、これまでは空気の読めないサイコパスでしかなかったカエルのもつ欠落や孤独に引き合わされて、ワニの死後バラバラになっていた友人たちがもう一度集まりみんなで喪失感を乗り越えていく。感動的じゃあないですか。100日目にワニが死んでバッドエンドで終わるらしい原作のラストを大幅に作り替え、さらには「死ぬ」というネガティブなタイトルを「生きる」という前向きな表現に改めたあたりからも上田慎一郎監督のあたたかいヒューマニズムのようなものを感じとることができると思う。
クソだった点は俺以外の誰かしらがたくさん書いてくれるはずなのでわざわざ書きませんが、まあたしかに面白くはなかったよな…。
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