るるびっち

100日間生きたワニのるるびっちのレビュー・感想・評価

100日間生きたワニ(2021年製作の映画)
3.8
カエルを受け入れるか否かで評価は決まる。
ワニが亡くなった後、友人や恋人は喪失感を埋められず絆もちぐはぐになっていた。そこへ目の飛び出た後ろ姿は似ているが、性格は正反対のうざいカエルが現れる。
グイグイ来るカエルを仲間たちは受け入れられない。動物に擬人化されているが、中身は内向的な日本人気質だ。
これがメキシコ人やアメリカ人なら、すぐ打ち解けただろう。
だがカエルの図々しさには理由があった。
そこから喪失を埋める、中々良い話が展開する。

だが主役はワニではなく、ワニを失った仲間たち。 とりわけ親友のネズミの物語になっている。
だから『100日後に死ぬワニ』でも『100日間生きたワニ』でもない。
『100日後に死んだワニを見守ったネズミ』の話だ。

上田監督に任せたのだから仕方がない。
『カメラを止めるな!』でも解るように、この監督の持ち味は構成の妙とか、切り口を変えるとかである。
当然、構成をイジってくるのは目に見えてる。
何しろ「死ぬ」と結果が解っている話だ。そのままやっても詰らない。
変化球しかないと考えるだろう。変化球しか作ってない監督なのだから。

オチが解っている話の扱いの難しさが、ここに表れている。
監督は黒澤の『生きる』をヒントにしたのかも知れない。
主人公の志村喬が、生きる希望を見つけた次の瞬間葬式になる。
唖然としていると、葬式で彼がいかに生きたか何を成し遂げたかが語られる。構成の妙だ。
だが本作の場合、ワニの親友や恋人など関係の深い連中だ。
むしろワニの話が辛くてできないのだ。
ここが面白いところで、距離が離れている相手ならば大いに生き様を語れるが、身近な親友だと名前を口にすることもためらわれるのだ。
関係が深ければ深いほど、彼のことを容易には語れない。
周囲の連中もまだ傷が癒えていないのだ。
一見、忘れてしまったかのように全員がワニのことは口に出さない。
しかし彼らの時間は止まっていて、次の一歩が踏み出せないでいる。
打破するにはショック療法のように、空気を読まないうざいカエルが必要だったのだ。
人生の機微を知った名監督だなと思った。
説明的な台詞が無いのも凄い。
カエルという異物を入れることで、リトマス試験紙のように周囲の反応を引き出した。そして人生をカエたのだ(安定のオヤジギャグ)。

さて、本作が低評価なのは観客の寛容・不寛容の問題と関わると思う。作品は「観客の物か作り手の物か」という問題だ。
『スター・ウォーズEP8』『トイ・ストーリー4』等。
それまでのイメージをぶち壊す作品は炎上する。
『100日後に死ぬワニ』も原作時点で炎上した。
タイトルが秀逸で、死ぬと解っているからこそ日常が愛おしいというフィルターが掛かった名作になった。
だが涙で人気を集めると、ビジネス対応した瞬間に炎上する。
いや慈善事業ではない、ビジネス化するのが当然じゃないか。
ファンの傲慢だろう。
お陰で忖度して『100日間生きたワニ』という、偽善臭いタイトルになった。
だが構成イジり大好き監督に任され、またもや大炎上。
作品は監督の物か観客の物か・・・
そのままやっても詰らない。
主人公がネズミに変わったが、意外に良い話に纏まった。
観客に任せて詰らないモノにするより、マシだと思うけどね。
とはいえファンが居なければこんな地味な話、誰も見ない。
観客の物か作り手の物か・・・本編より難しい命題だ。
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