馮美梅

護られなかった者たちへの馮美梅のレビュー・感想・評価

護られなかった者たちへ(2021年製作の映画)
3.9
物語は2011年の東日本大震災と10年後が交差しながら進んでいきます。
震災で被災した人たち…

色んな悲劇がいろんな人を飲み込んでいく。
それは地震や津波、そしてその後の生活困窮…

10年後…連続殺人事件が起きる。
相手はいずれも市役所の職員、それも保健福祉、生活保護受給にかかわる社員。その死に方もいずれも監禁されテープグルグル巻きにされたまま餓死という。

一体何のためにどういう理由でこの2人は餓死をしたのか?
刑事の笘篠は蓮田と共に捜査を進める。

そこに浮かび上がってきたのは数年前に放火で逮捕歴のある利根泰久。
本当に利根が2人を殺したのか?

一見、まったく接点がないような、しかし、結果的にどこかでつながっている関係。震災の中、ある者は大切な家族を、仕事を、居場所を亡くした人たちがいて、居心地の悪さを感じる空間の中気が付けばいつしか家族のような関係になっていく。

それぞれ孤独に過ごしていた利根・遠島けい・カンちゃんの3人は最初はぎこちなくも少しずつ家族のようになっていった。

そんな大切だった遠島けいが、最後のセーフティーネットである生活保護を受けようとしても、担当者は容易に切り捨てられ餓死してしまう。

死ななくてもいいはずなのに、死んでしまった大切な家族の姿に行政の非情さやどうすることも出来ない自分たちの無力さに打ちのめされる利根とカンちゃん。

そしてその怒りを放火という形に行動してしまった利根。

生活保護を受給するのはなかなか大変。
受ける側もだけど、受けるための手続きや疎遠になっている家族にとっても大変なのである。

それなのに、殺された三雲も城之内もそういう人に寄り添ってはくれない。餓死をするという事がどういうことなのか?どういう思い出死んでいくのかを思い知らしめたいと思う犯人。実際死んだ2人は何を考えただろう。

三雲は倒れた墓石を時間があれば起こしたりするほどの優しい人と言われていたが、死んだ人間に寄り添うのではなく、今生きている人たちに寄り添わなければならかなった。彼にとってはそれはささやかな罪滅ぼしのようなものだったかもしれない、見てる側からすると自己満足のようにしか思えなかった。

犯人は…
一見矛盾を感じなくもないけれど、だからこそ遠島けいのような悲しい人たちを少しでも助けたいと思う思いがあることは事実だったと思う。その中にいるからこそ余計に感じるものが事件を引き起こしてしまったのだろう。

事件は解決しても決して後味の良いものではないし、刑事の笘篠も妻は見つかったが息子は今だ行方不明のまま。

しかし、最後そんな笘篠と利根の間に奇跡のような一瞬が訪れる。

佐藤健さん、阿部寛さん、倍賞美津子さんなど素晴らしいかったです。
特に、阿部寛さんの涙は本当にグッときました。
劇中の中で「震災で人が亡くなることは仕方ない(不可抗力)だけど、餓死で人が死ぬ事は誰かが手を差し伸べたり、自ら声を上げれば助けられるのに」というような言葉。

重いテーマだけど、今もこの作品にようにどこかで誰かが助けを求めているだろうし、そういう人たちが一部の私腹を肥やそうとする人たちや不正受給の問題もなんとかしていかなければ、本当に困っている人たちが助かることが難しい事を作品で感じることができます。
馮美梅

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