ちろる

護られなかった者たちへのちろるのレビュー・感想・評価

護られなかった者たちへ(2021年製作の映画)
3.8
東日本大震災から9年が経った宮城県の都市部で起こったとある惨たらしい連続殺人事件をテーマに、日本社会が抱える格差の実態について考えさせられるミステリードラマ。

同じ避難所には、全てを失って孤独に寒さで震える男、眼光鋭く尖ったような利根を佐藤健さんが演じる。
避難所で利根は親を失った幼いカンちゃんをかばおうとする。
そんな二人に、同じく孤独な老婆、けいさんが優しく声をかけ、
3人の間に孤独な者同士、擬似家族のような関係が自然と始まっていった。

だがその後けいさんは生活保護申請が断られ、餓死という悲惨な運命をたどる。

利根は保護申請を却下した役所に放火して数年の受刑となり、
少女カンちゃんはその後に生活保護窓口の担当者となる。

そしてカンちゃんは大人になり、不正受給をする一部の輩と、本当に必要な人に行き渡らない社会の不条理を目の当たりにする。
更にはけいさんがそうであったように生活保護を受けるに対し、国の厄介になる事に後ろめたさを感じる老人も多い。
その闇を浮き彫りにさせながら、なぜ生活保護の担当職員が、あそこまで残虐に殺されてしまったのか、そして出所した容疑者の利根はどこで何をしているのか・・・
刑事の笘篠と蓮田は真実に迫ろうとしていた。
そして事件は思ってもない方向に舵をきろうとしていた。

途中から、犯人とその目的は明確に分かってしまうプロットではあったが、本作はそれを明確にすることがゴールではない。
正確に言うと、この問題に未だゴールなど見出せない。
犯人の言い分が正義だと言うのは乱暴すぎるし、ではどうすれば良かったのかと言うと考えは浮かばない。

公的支援制度だからこそ原理原則を厳格に護らなければ本来護るべき人を護れないのが生活保護。
申請の取り下げも、基本的には原理原則に基づいているはずで、けいさんの死はその中で起こった悲劇ではある。かといってあの場で上崎がどういう行動を取れば良かったかは私には分からない。

三雲や上崎らも、現場で毎日のように窓口に来る人々の怒りを一身に背負わされ、挙句殺害されてしまった点で、本来自分たちを護ってくれるべき「国」によって「護られなかった」者たちと言えるのかもしれない。

少なくともあんな残酷な殺され方をされなければならないほどの極悪人などではなかったはず。

犯人が憎むとすれば同じ生活保護担当の上司ではなく、悪いのは政治なのだから国を憎むべき。

そんなわけで、ミステリーとしては色々な人を怪しく描いていて作品としては面白いが、実際に起こった震災を絡めた作品にしたならば、「貧困」についてもっと丁寧に描いてほしかったと残念な気持ちが残る。

客観的な視点でレビューを書いてしまったが、もし自分が彼らの立場になったなら、また全く違う感情が生まれるのかもしれないし、正直正解は分からない。
しかしあの東日本大震災が多くの悲しみと喪失を生み、それは今でも消え失せることがないという事と、「護られなかった」者たちがあちらこちらにいたのだということを決して忘れてはいけないと改めて思った。
ちろる

ちろる