朧気sumire

護られなかった者たちへの朧気sumireのレビュー・感想・評価

護られなかった者たちへ(2021年製作の映画)
3.2
被害者を拘束後に放置して餓死させる連続殺人事件が起きる。
傷がまだ癒えない被災地で、生活保護制度の欠陥を指摘した社会派映画。

中心人物である阿部寛や佐藤健の安定感ある演技と骨太な社会派ヒューマンドラマは面白かったけど、肝心の生活保護制度については納得できない描写が多くて少し褪めた気持ちで見ていた。


不正受給率は約1%未満で、おそらく世間が思っているよりも少ないこと。
生活保護の捕捉率は約1割程度という低さ(生活保護を利用できる人が実際に利用している割合)。
生活保護は最初で最後のセーフティネットであること。
ケースワーカーの激務などの現場の課題。
これらはきちんと描いてくれた。

けれど「福祉支援制度を使うなら、本当に困った人(他者が同情できる理想的な苦労人)でなければならない」という制作陣も無自覚な思い込みが随所で出てきている気がした。

犯人が1割の不正受給者を「不埒な者」と呼んだり、ケースワーカーが車を持っている者を「困ってない人」と決めつけたり。

そもそも不正受給者の中でも悪質なのは稀で、悪意のないケースが多いので「不埒」とそう簡単に両断できるものではないし、作中のケースワーカーが非難した受給者が本当に遊び歩いてるだけの人なのかも分からない。
相手が本当に困ってる否かを第三者が客観的な定義を作って正確に判断するなんて絶対に出来ないのに、「本当に困ってる人に」と簡単に言う犯人には傲りを感じてイライラした。
この人はこの人で被害者たちと同じなんだよなって。


ぶっちゃけ助けを求めてくる人の中には困ってるように見えず助けたいと思えない人が多かったりする。
悪い人でも苦労してなさそうな人でも申請できて審査が通れば利用できるのが生活保護であり、最後のセーフティーネットならばそんな物でなければいけない。

せっかく生活保護の課題を描いた数少ない映画なのだから、もう一歩踏み込んで
「万人に利用する権利があり、そこに本人の良し悪しは関係しない」ということまで描いてほしかったな〜と惜しい気持ちになる映画だった。
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