にくそん

レディ・トゥ・レディのにくそんのネタバレレビュー・内容・結末

レディ・トゥ・レディ(2020年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ダンスシーン、思った以上にボリュームたっぷり。楽しんで踊っているシーンは見ていて気分が昂揚する。最後、「シング・シング・シング」で座席が揺れた。ちょっと勘弁してよと思ったけど、ついノッてしまう人の気持ちも分からなくない。

主人公の一華と真子には、中学時代は女子同士のカップルで踊っていたけど(競技人口がそもそも女性のほうが多いから)シニアになると男女ペアになるので、セパレート(ペア解消)しなければならなかったという背景がある。テレビの企画のためにもう一度二人で踊るというストーリーなんだけど、終盤で高校時代にセパレートした後の寂しそうな姿が点描のドットの一つみたいにして描かれていて、あそこ一番きゅんとした。競技ダンスの話に限らず、女性同士の友情はなぜか期限付きにさせられることが多くて、それが嫌だとか本気で寂しいとか、思っても言ってもいけない空気がある。それを叩き壊す二人の姿に、だからすごく感動する。

二人に立ちはだかる壁は強大で、大会の審査や番組からはじかれてしまったりするんだけど、同時に勝手な“意味”の押しつけという地味な差別も描いてあって、そこを描くことにした監督の繊細さがすばらしいと思った。同性愛者なのではとか、女性の権利などの主張あってのことではとか、“意味”を勘ぐられる時点でもう差別だから。だって男女カップルには「なんでこの人と組むんですか」とはいちいち聞かないわけでしょう。「女性のためにも頑張って」と女性レポーターから言われて「私たちは自分のために踊る」と宣言した上で「でも、ありがとう。頑張ります」と言う一華のキャラクターがめちゃくちゃ好きだ。

「いつも支えてくれてありがとう」とか「空気は吸うもの」とか一華に“いいセリフ”が多かったけど、内田慈さんが適温で聞かせてくれるので、ただただ素直に、いいなあと思って聞ける。いわゆる名ゼリフっぽいのよりも「人生で残ってる“式”って、あとお葬式ぐらいじゃない?」が私は好きだけど。「御の字」とか「無礼者」とかなぜかじじくさい言葉を使いがちっていう真子のキャラクターも好きだった。全体に、笑いの種類も入れ方もイケてたな。

ただ、テレビ局のプロデューサーのキャラがあまりにザ・軽薄な業界人という感じで、そこはもうちょっとリアルに造ってくれたほうが楽しめたかも。最後に「なんの意味があるんだ!」と言わせて、そのアンサーで一華たちにまたいいこと言わせるんだけど、それはもう言わせないでほしかった。セリフであんまり説明されるのは、観客として立つ瀬がなくて。

意味なんかないんだ、ということを何度でも強調しようと思った、その考え方自体は好き。『Daughters』を観たときにも思ったけど、二人が恋人じゃなくて友達なのが素敵。大人になったら恋をするか(不倫でもなんでも)、家族になるか、それしか人と人が一緒にいたり互いを想い合ったりできないなんて、それはあんまり絶望的だと思うから。二人がただ友達で、ただ踊りたいから踊る、それだけなのが最高だった。

ディレクター・向井役の清水葉月さん、『燃ゆる女の肖像』のソフィみたいでよかったな。どこかで見た人だと思ったら、舞台「二度目の夏」だった。
にくそん

にくそん