YasujiOshiba

PIG ピッグのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

PIG ピッグ(2021年製作の映画)
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U次。23-148。これは面白かった。ニコラス・ケイジの存在感はいつものジャンル映画をひきずりつつ、少しずつ期待を裏切ってゆく。

トリュフ豚の毛並みの良さ、小麦をこねる手つき、フライパンのソテー、その映像、その音響。その心地良さ。その丁寧な積み重ねが、3つのパートからなる、3人の男たちの、3つの料理による、グリーフワークを立ち上げる。

なるほどだからオープニングが水だったんだ。あの暗い水から浮き上がったところに佇むケイジは喪に服す男の依代だったのだ。監督のマイケル・サルノスキの言葉を訳しておこう。

「父が亡くなってから、生きていることが夢のように感じられたのです。起こってしまったことから目覚めるのを待っている、そんな感じ。自分が自分の人生を外から眺める部外者になったように思えたのです。悲しみは決して立ち去りはしませんでした。むしろ、ゆっくりとぼくの人生に取り込まれてゆきました。まとわりついて離れない感じです。(映画の主人公の)ロブがぼくと世界のインターアクションを探る手助けをしてくれました。彼は世界をばかげたものだと見ており、価値を見出せません。(この映画の)ハイパーリアリティはロブが世界について感じる疎外感を象徴するものなのです」

(After my dad passed away, my life felt like a dream… like I was waiting to wake up from what had happened. It made me feel like an outsider looking into my own life. [...] The grief never went away. Instead, it quietly integrated itself into my life. It kind of lingers. Rob helped me explore my interactions with the world. He sees the world as absurd and can’t value it. The hyper-reality represents the strangeness Rob feels about the world.)
https://www.creativescreenwriting.com/an-absurdist-exploration-of-loss-and-grief-michael-sarnoski-vanessa-block-talk-pig/

なるほどこの作品にも死者がいる。ある意味でどんな作品にも死者がいるのだけれど、その存在しないものとの対話の深さこそが、ぼくらが映画に惹きつけられる所以なのかもしれない。
YasujiOshiba

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