上野

君が世界のはじまりの上野のネタバレレビュー・内容・結末

君が世界のはじまり(2020年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます

上映時間分ブルーハーツを聴いていた方がよっぽど有意義。115分使ってこれはお粗末過ぎると思う。

おそらく家庭環境と恋愛がダブル軸なのだが、この2つが恐ろしい程に噛み合っていない。


まず登場人物たちの家庭環境。それぞれ別方向に劣悪なことが提示されるが、どの家庭もはっきりとした原因は描かれない。

ナリヒラの父親があそこまで病んだ理由も、ジュンの母親が出ていったはっきりとした理由も、こちら側にははっきりと伝わってこない。
ナリヒラの母が居なくなったからだとしたら、ナリヒラの幼少期からずっと病み続けていることになってしまうし…。
冒頭でジュンが口紅を弄るシーンがあったから、父親が不倫したのかと思ったけどどうやら違うみたいだし…。「父親が母親の役割を奪った」ってどういう意味?

なんなら「昼職についているであろう父親が深夜まで起きていて大丈夫なのか?」「暴れ出すほど精神を病んでいる父親を一人で残したまま高校に通い、部活動に所属できるか?」と言った部分が気になり話が入ってこない。


義母と肉体関係を持っているイオが最初からずっと「義母が好き」という前提で話が進んでいくのも気持ち悪い。
ジュンが義母とのカーセックスを目撃した際も「援交?」「気持ち悪くないの?」といった台詞はなく、相手が母親と知った際も「若いなぁ」と言うのみである。「ナナミさん(義母)のこと好きなんやろ」と言うのもジュンの方からだ。根本的に価値観がズレているとしか思えない。話を聞くに義母はきちんと父親に惚れて結婚していそう(父親と出会った場面にイオは居なさそう)なので、ますます義理の息子と性行為を行っていることへの理由提示やツッコミがないことも気持ち悪い。


冒頭に高校生の親殺し事件が提示されたので、劣悪な家庭環境の子どもたちがどうやって生きているのか…というような話かなと思いながら見ていた。
実際映画の終盤で殺人犯の同級生に対して主要5人で話し合うシーンもある。
「普通のやつだった」「俺はあいつとは違う」「誰にでも起きうる」「犯人が馬鹿なだけ」
様々な意見がそれぞれの家庭環境から飛び出すシーンはテーマがわかりやすくてよかったので、もっと長く撮ればいいのにと思った。

この後THE BLUE HEARTS『人にやさしく』に乗せて抑圧された思いを解放するシーンがある。流れとしてはわかるけどイオ・ジュンサイドにブルーハーツの前フリがあったのに、ユカリ・ナリヒラ・オカダサイドにはなんにもなかったのが気になった。
『人にやさしく』と『キスしてほしい』が散々擦られていたが、そこまで映画内容とマッチしているとは思えず感情移入(というか感情の昂り)が出来なかった。


もう1つの軸らしい恋愛パートは恐ろしいほど何も起こらない。
めちゃくちゃガンガン行くタイプに見えるコトコですら「ナリヒラとのデートでエン(ユカリのあだ名)の話ばっかりされてつまんなかったよ〜泣」というだけである。唯一ナリヒラがユカリに告白未遂をするが、それもユカリに止められてしまい聞き分けよく「そっか…」と言うだけだ。

ユカリが終盤まで誰を好きなのか明示されないのは良かった。だがオカダに「お前も逃げるな」と発破をかけられてもなおラストシーンで告白がなかったのには拍子抜けした。


百合としては程よい描写が度々見られたと思う。
コトコが付き合った人数を数えていたり、毎回噎せるのにコトコの吸いかけのタバコを貰ったりするユカリはとてもいじらしい。付き合ったり別れたりする度に一喜一憂しめたんだろうな…。
またオカダに恋心や卑怯な立ち振る舞いを指摘されて、初めて感情を露わにしてキレるシーンは人間味を感じてすごくよかった。
「エンさんって呼んでいいのはあの人だけ」と言う台詞もユカリとコトコの関係性を表していて素晴らしいと思う。
とにかく松本穂香の目線の演技が半端なかった。もうお前めっちゃ好きじゃん…としか言いようがない。

だからこそ上記の説明不足やとっちらかったテーマ、今どきこんな高校ないだろというような舞台設定、非現実的な青春(犯罪、倫理観の欠如)といった部分がめちゃくちゃ足を引っ張っていたのが悲しかった。


最後になったけど、イオが「ここにはなんにもない、こんな所にずっと居たら気が狂う」と発言する(それがブルーハーツの『人にやさしく』と共鳴する)のにも違和感があった。この映画の舞台は大阪である。田舎の方とはいえ大阪でこの発言をされたらもっと田舎に住んでいる人間はどうなるんだ。中学生なら自転車で行ける範囲が全てかもしれないけど、高校生は違うだろ…。
本当に細かい違和感が多い映画だった。
上野

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