クロスケ

リンダ リンダ リンダのクロスケのレビュー・感想・評価

リンダ リンダ リンダ(2005年製作の映画)
4.3
【再鑑賞】
いかにもありそうな、若者たちの日常生活を比較的淡々と描いています。ある人にとっては、特に気にもならないごく平凡な作品かもしれません。しかし、個人的には強く擁護したい好意的な作品です。私はどうやら山下敦弘が無条件に好きなようです。

必要以上の感情の高鳴りを敢えて外しているかのような演出が実に心地よい。

韓国人留学生・ソンと日本人の女子高生たちは一見、バンドを通じて深い友情関係を形作っていくようにも見えますが、私にはどうも彼女らの交流は学園祭の終了と共に途絶えてしまうように思えてならないのです。怪我をしていたモエが完治して、ケイとリンコが仲直りをすれば、また元のメンバーに戻り、ソンはバンドを離れていかざるを得なくなるかもしれません。
私にそう思わせたのは、ソンがバンドの輪を離れ、無人の露店が立ち並ぶ夜の校内を徘徊するシーンです。ひっそりとした体育館でステージに立つソン。静寂と薄い暗がりが彼女の目の前に広がります。部室に戻ると、三人は何食わぬ顔で練習を再開しようとしています。
このときのソン役のペ・ドゥナの寂しげな表情を見てほしいのです。宿命的に背負ったアウトローの顔です。事実、彼女は唐突にメンバーに誘われるまで、どこかの少女を唯一の友人として孤独な学生生活を送っていたのです。
だからこそ、私はソンが大勢の生徒たちで埋まった体育館のステージに立ち、声を振り絞って1曲目を歌い出すその瞬間に涙したのです。彼女が初めて世界に向けて声を放つ瞬間です。音楽によってのみ繋がることのできる三人の仲間を得て、彼女はその存在を世界に証明したのです。

そんな些細な気づきを、運命的な瞬間かの如く引き伸ばして見せること。それが青春を映画にすることなのだと思います。
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