本好きなおじぃ

ホテルローヤルの本好きなおじぃのレビュー・感想・評価

ホテルローヤル(2020年製作の映画)
4.1
ラブホテル・ローヤルに暮らす雅代。
実家がラブホテルだからと昔からバカにされ、大学受験にも失敗し、両親からは跡継ぎと言われる。
ここには、掃除要員で雇われているミコと和歌子。彼女らと雅代は、ダクトルームで、スペシャルルームのセックスの声を聴くのが習慣になっていた。
母のるり子は経営の管理をしながら、掃除要員の二人をまとめている。父の大吉はパチンコに行っていて甲斐性無し。やがてるり子は若い男と駆け落ち同然に逃げ出していく。
そして、雅代が淡い恋心を抱き続ける相手の、アダルトグッズ販売会社員の宮川。宮川は年頃の雅代を気遣う。
そんな多彩な登場人物たちの、日常が詰まった物語。

小中も青春時代も、雅代にとってはホテルローヤルしかなかった。同窓会の葉書が来ても、行く場所ではない、と。
そこで働く中で、自分を見出せぬまま過ごすが、途中で出てくる、
ミコの絶望
母親の家出
宮川が既婚者だという事実の発覚
そしてホテルでの心中
そんなホテルローヤルで起こる様々なことに、雅代は立ち向かわざるを得なくなる。

自分の居場所ではないと思っていながら、そこに住まうことにした雅代の一定の弱さもあったのだろうが、雅代に対する周囲の無関心も大いにそうさせたに違いない。可愛がっていたつもりでも、雅代が雅代自身に目を向けるような働きかけはおそらくなかった。
けれど、それを打ち破ろうとするかはやはり雅代次第だった。では、この作品で雅代を突き動かしたのは一体何だったのだろうか。
釧路の雄大な自然を背景に、ゆったりとした進行をしている今作。
はじめの若者二人がヌード撮影に来たシーンはじめ、このホテルにやってくる人とのテンションの違いこそが、雅代の感情とそれ以外の人の感情が異なるということを端的に表していて、レトロ調の映像になっているのは、それを増幅させて見せてくれるし、もう一つ、雅代の思い出を一つ一つ視聴者に追体験してほしかったのかもしれない。