櫻イミト

幸福号出帆の櫻イミトのレビュー・感想・評価

幸福号出帆(1980年製作の映画)
3.0
三島由紀夫・没十年記念映画。監督は「津軽じょんがら節」(1973)の斎藤耕一。脚本は「竜馬暗殺」(1974)の清水邦夫。製作は元ATGプロデューサーの葛井欣士郎。音楽はTV番組「探偵物語」(1979)のSHOGUN。

三津子(藤真利子)は、異父兄の敏夫(倉越一郎)、かつてオペラ歌手だった母の正代(加藤治子)、その妹ゆめ子(岸田今日子)と貧乏暮らしをしていた。ある日の新聞にイタリアのオペラ歌手コルレオーニが亡くなり妻の歌子(高峰三枝子)が十億円の遺産を相続する、という記事が載る。コルレオーニは敏夫の実父だった。。。

ATG黄金期のスタッフによる1980年の一本。まさしく末期ATG作品群と同様に、転換期の時代に乗り切れない痛々しさが漂う映画だった。70年代の”重さ”を、80年代の”軽さ”で描こうとして上手く行っていない。不自然なメルヘン演出の珍妙さは、名匠・橋本忍の珍作「幻の湖」(1982)と通底するものを感じた。

三島由紀夫の原作は1950年代の東京を舞台に、混血、密輸、オペラと当時の時代風俗をふんだんに繰り込んだエンターテイメントで「鏡子の家」の原型とされている。これを1980年を舞台に設定することに無理を感じる。没十年記念映画としてこの原作をチョイスした時点で負け戦だったと思う。

本作の興行的失敗をもって、葛井欣士郎の映画製作は最後となり、斎藤耕一監督は8年間の休業状態となる。SHOGUNは前年放送の「傷だらけの勲章」「探偵物語」で大ブレークしたばかりだったのが、本作直後にマリファナ所持で逮捕され活動停止。70年代文化の終幕と1980年という時代の転換点を飾る興味深い一本とは言える。

■1980年度キネマ旬報ベストテン
1.ツィゴイネルワイゼン
2.影武者
3.ヒポクラテスたち
4.神様のくれた赤ん坊
5.遙かなる山の呼び声
6.父よ母よ!
7.四季・奈津子
8.海潮音
9. 狂い咲きサンダーロード
10. 太陽の子てだのふぁ
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