悪魔の毒々クチビル

ジャッキー・チェンの醒拳の悪魔の毒々クチビルのレビュー・感想・評価

ジャッキー・チェンの醒拳(1983年製作の映画)
2.0
「19年無給で休みはトータル3日な」

父親の仇をとるべく怠け者の従兄弟同士が戦うお話。

ジャッキー・チェン主演(?)の香港映画です。
ジャッキーが撮影中に渡米してしまい、「クレージーモンキー 笑拳」等の他作品のNGカットや未公開シーンだけでなくダミー俳優まで起用して無理矢理仕上げたジャッキーの黒歴史的な作品ですね。

そもそも何でジャッキー渡米したんだって話なんだけど、そこは今作の脚本を書いたロー・ウェイとのいざこざが関係しています。
詳しく知りたい人は各々調べて欲しいんだけど、契約も切れたし今後の活躍の為にもローの元を去りたがっていたジャッキーを契約書の改竄というゴリゴリの違法手段に出たり暴力団をけしかけたりと、このロー・ウェイという人物は中々やべぇ奴だったみたいですね。

まぁそんな訳で今作はジャッキー抜きでローが勝手に完成させた作品となりますが、当然内容は継ぎはぎだらけのお粗末なものです。
そもそもジャッキーの流用映像も複数の作品からなので、微妙に髪型違うし。
ダミー俳優でまかり通したシーンは物語の流れ上で変装する展開を作ってやり過ごしたりしていますが、変装越しでも本人でないのが丸分かり。
一応草木の陰とかを利用してなるべく顔をしっかり映さないようにしていますが、仮に製作事情を知らずに観ても「これジャッキーじゃないな」と気付けるくらいには別人でした。
そんな偽ジャッキーが戦っているシーンは観ている内に「誰が誰と戦ってんだよ」と段々笑えては来ます。

ラストバトルはアクション自体はまだ良いとして、今作用の映像と流用映像の入れ替えが一段と激しくむっちゃ粗い。
そもそも設定では従兄弟同士でも撮影では全く会っていない二人の共闘なので、そりゃ無理がありますよね。
二人一緒に映るシーンはこれまた偽ジャッキー役がこなしていまして、ほぼ後ろ姿のみですがチラッと見える横顔が絶妙に似ていない。

思っていたよりも素材があったようでジャッキー本人もまぁまぁ出番(と言っていいのだろうか)はありますが、元々脚本自体はラフな香港アクションに更にハチャメチャな要素を加えてしまった為、びっくりするくらい何も残らない作品でした。
最近だと「ワイルド・スピード Sky Mission」みたいに撮影中に俳優が亡くなってしまい、代役や脚本の変更で対処するパターンは実際いくつかありますが今作の事情はそういった作品とは全く別。
どちらかと言うとロジャー・コーマンが「ダイナソー・クライシス」以降、自ら製作した恐竜映画で過去作の映像を惜し気もなく流用していたノリの方が近い。
当時の香港映画界の闇が窺える珍作でした。
初期の編集版はジャッキーによる訴訟の影響でお蔵入りになったそうな。