ボブおじさん

ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれからのボブおじさんのレビュー・感想・評価

4.2
とにかく素晴らしい映画だった。原題の「The Half of It」とはプラトンからの引用で元々は完全だった〝自分の片割れ〟のことを意味するのだが、逆の言い方をすれば〝不完全な自分〟ということにもなるだろう。

保守的な白人の多い高校で唯一のアジア人のエリーは、内向的だが頭はいいため同級生の宿題代行で小遣い稼ぎをして過ごしていた。ある日アメフト部のポールからラブレターの代筆を頼まれる。それはエリーが密かに気になっていた学校一の美少女アスター宛のラブレターだった・・・。

今時の映画らしくLGBTの設定にはなっているものの、話の骨格は完全に古典的戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」である😊

丸メガネで鼻の低い中国系シラノは、剣の代わりにスマホを駆使し、ポールのラブレター代筆を通じてアスターとの疑似恋愛を体験する。ひとりの美少女を好きになった同じクラスの男子と女子の奇妙な三角関係が展開する。

エリーの気持ちはアスターに伝わるのか?
最後アスターの愛は誰に捧げられるのか?
エリーとポールの異性の友情は続くのか?

友達もいないアジア系性的マイノリティの女の子、学業もスポーツもイマイチの冴えない男子、学校一のモテ男と付き合っている学園のマドンナ。 

交わるはずのない3人の人生が交錯し、互いに影響をおよぼしあった青春の尊くて儚いひと時。自らのアイデンティティーに悩みながらも、他者とのかかわりを通じることで見えてくる〝本当の自分〟の姿。

これはラブストーリーでもなければ、誰かがほしいものを手にする話でもない。映画を見終わった時、タイトルの本当の意味が見えてくる。

ラストの解釈は、人それぞれ違うだろうが、私には3人にとってこれ以上ないハッピーエンドに見えた。まさに面白いのはこれからである😊



〈余談ですが〉
映画の中でエリーの父親は、いつもテレビで古い映画ばかり観ている。『カサブランカ』『ヒズ・ガール・フライデー』『ベルリン・天使の詩』『フィラデルフィア物語』『街の灯』あと謎のインド映画😅

例によって映画の中に出てくる映画には必ず意味がある。それを考えるのもこの映画の楽しみのひとつかもしれない。

更にノーベル賞作家カズオ・イシグロの『日の名残り』について語られる場面もある。映画の方を見た方も多いかもしれないが、当然この話もこの映画の内容に通じるところがある。

これらの作品を知らなくてもこの映画は十分面白いのだが、知っていれば映画の内容と結びつきより楽しむことができると思う😊