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サーカス・オブ・ブックスのblacknessfallのレビュー・感想・評価

サーカス・オブ・ブックス(2019年製作の映画)
4.2
長年に渡りゲイ・コミュニティとして機能したゲイ専門のアダルトショップのドキュメンタリー。

経営者がユダヤ系のご夫婦👴👵で本作の監督がその娘👧さん。掴みからインパクト大きいよな笑
このご夫婦👴👵がポルノショップの経営にするまでの話もなかなかおもしろいんだけど、事細かに説明するのも勿体な気がするから省くけど、1つ言うと当時は今以上にゲイポルノはアングラで『ハスラー』誌の創設者のポルノ王ラリー・フリントが創刊したゲイポルノ雑誌でも流通先を探すのが大変で販路確保に苦戦していた、そんな中ある縁からご夫婦はフリントのゲイ・ポルノ流通に携わることになり、それならばと潰れかけのアダルト🔞本専門店を買取りそこにフリントの雑誌を始め各種のゲイのアダルトグッズを置くゲイ専門のアダルト書店をオープンする。

この店、サーカス・オブ・ブックスはその品揃えの豊富さから忽ち人気店になり、当時、抑圧されていたゲイの人達の心の拠り所、フリースペース的な存在になる。
この店、日本の新宿2丁目にあるようなポルノショップのように小規模なものじゃなくて郊外の街道沿いにあるBOOK・OFFぐらいのスペースある。うまく言えないけどかなり広い。その広いスペースにグラビア誌からDVD、そして実践用のアイテムが陳列されてる様は圧巻。ゲイの人にはドリームショップだったのも頷ける。

ご夫婦👴👵で経営してるんだけど経営の実権は奥さん👵が握っている、旦那👴は主にサポートと言うより奥さん👵のやることをニコニコ見守るだけ笑
やり手の奥さん👵は自社作成で当時人気のゲイポルノ俳優を起用してアダルトビデオをリリースする。監督も分かってる人を起用しツボを得たもので空前のヒット作になる。俳優のサイン会まで開かれることに。
そんな感じでノリノリだったんだけど80年代、エイズとレーガン政権のゲイバッシングで風向きが変わる。
レーガンはエイズをゲイ特有ほ疫病と決めつけ、それを反動的道徳回帰のキャンペーンに結びつけポルノ業界全般を抑圧する政策を取る。エイズに対する対策を取らずバッシングに熱を上げるレーガンのせいでエイズは多くのゲイの人達の命を奪っていく。そしてバッシングの矛先はゲイアダルトショップの本山とも言えるサークル・オブ・ブックスに向かう。店は刑事告発される。
ここで、このご夫婦らしさが出てるなと思ったのは告発間近になって旦那👴さんを社長にして旦那👴さんが被告になるようにしたとこ。真の経営者である奥さん👵は「私が捕まると店がやっけないからね😜」あっけらかんと言い放ち、旦那👴さんも「まあ、しゃーないよねぇ😅」みたいに雰囲気でニコニコしてた笑
なんと言うかある意味すげぇおしどり夫婦なんだと思った。
この2人、本当に性格が対照的でゲイの店員やゲイへのスタンスもかなり温度差がある。奥さん👵の方は完全に商売と割り切った距離感でガチガチのユダヤ教徒だから根本的に教義的観点からゲイ蔑視がある。旦那👴さんもユダヤ教徒なんだけどさほど信仰心はなくゲイに対する偏見はない。エイズに罹って死期が迫った店員を熱心に見舞い、彼の親元にコンタクトを取ってあげたりする。その時の店員の親達が死期が迫っても息子を受け入れず「勘当したから関係ない」「もう息子だとは思ってない」と言って自分の子供を拒絶したことを「ゲイなんか関係ないだろ、自分の子供なのに信じられない」と怒気を露にして非難していた。

本作はゲイがどのように社会や政治から見られ扱われていたか、その変遷がわかる社会派ドキュメンタリーの側面が強い。
しかし、それだけじゃなく監督が被写体の娘ということもあり、当時の家庭の様子、「親から仕事のことはまったく教えてもらえなかった」とか、親の職業がわかった時の子供の心情なんかもリアルに映し出されるホームドキュメンタリーとしての側面もある。
特に商売道具としてしかゲイを見てなかった奥さん👵が息子がゲイだと知り、ユダヤ教教義との葛藤を乗り越え息子(ゲイ)を人として受け入れるまでの過程は、それだけで主題になり得る重さがあった。

そんなに期待して観たわけじゃないけど、内容が濃く重層的でとても見応えがあるドキュメンタリーだった。同性愛者に対する偏見は人類がまったく克服できてない課題の1つなんだと言うことがよくわかる作品。
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