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ジオラマボーイ・パノラマガールのtetsuのレビュー・感想・評価

3.3
瀬田なつき監督作品を予習して、鑑賞。


[あらすじ]

女子高校生・渋谷ハルコと、学校を辞めてフラついてる青年・神奈川ケンイチ。
再開発が進む東京で生きる彼らの、古くて新しい「ボーイ・ミーツ・ガール」の物語。


[感想]

制作規模が大きくなり、役者は豪華になっているのにも関わらず、「やっていることは変わっていないのでは?」とさえ思えてしまうほどに、監督の作家性が滲み出た作品。

なんなら、ストーリーテーリングの特異性に関しては、回を増すごとにより強烈になっており、個人的には、初期の作品の方が好きだったなぁと確信する作品でした……。汗


[瀬田なつき作品として]

主人公の語りから、相変わらず、監督の作家性が爆発していた本作。
以下の点でも、監督の他作に繋がる要素がありました。
(以下、箇条書き。)

・橋
・街
・風船
・鼻血
・噛み合っていないようで続く、哲学的な会話
・鏡とカメラ目線
・不思議な部屋の一室
・タクシーとクラブのリアプロジェクション
・走る
・自転車に乗った主人公から空へのカメラ移動

また、劇中で主人公がふと口にする言葉「私が見えている世界は全て嘘かもしれない」という言葉は、瀬田なつき監督作品に通じている大切なテーマな気も……。

存在を信じていたはずの人物が、突如、いなくなったり、想像していたのと違う人物だったり。

本作では、監督作品に通ずるそんな要素を引き継ぎつつも、あえて、それを否定しているような演出があり、そこも魅力的ではありました。


※以下、若干のネタバレあり。

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[監督の過去作との違い]

監督の過去作と違う要素には、以下のようなものがあったように思います。

・過去・未来が関わらない
・ifの展開が登場しない
・風船を割る

特に、これまでの長編で一貫していた過去・未来の交錯が登場せず、現在だけの物語として描かれていたのは興味深いところ。

どちらかというと、同時系列の別世界を描いていた監督の短編シリーズ『5windows』にも近い作風は、長編になると、少し退屈にも感じてしまう部分があり、原作に忠実であることは評価しつつも、若干、肩透かしを喰らってしまいました。


[とりとめもない物語]

ニュースから聞こえる女子高生の死(若干の『リバーズ・エッジ』っぽさを感じなくもない。笑)や、小惑星を止めるための核爆弾。

しかし、それらが何ら、物語に関わるわけではなく、ただ、ひたすら、主人公中心の世界で進んでいくという展開が独特でした。

序盤で想起させられる典型的な「ボーイ・ミーツ・ガール」の物語が否定され、瀬田なつき監督の十八番とも言える「同時並行」かつ、主人公の男女を「別々に」描く展開は、まさしく青春ラブストーリーとは似て非なるもの。

その革新的な作風から『ホットギミック-ガールミーツボーイ』と並べて語られそうな本作ですが、謎の求心力があった『ホットギミック……』と比べると、意図されたであろう淡々とした展開が、あまり、ハマらなかったというのが正直なところ。

突然、エクアドルに行ってしまう登場人物や、建設中のマンションで菊正宗を瓶飲みする主人公など、違和感ありありな描写が、ごく自然の出来事のように描かれているシュールさは楽しめましたが、1本の作品として好きかどうかと聞かれると、正直、イマイチに感じてしまう作品ではありました。


[ラストシーンについて]

2人の男女の関係性に、わずかながらの希望を残したあと、まさしく、街と空のパノラマで幕を閉じる本作。

スクリーンがビルの屋上とシンクロする見事な演出が、本作で一番印象に残る部分でした。

「空に光が見えるか、見えないか。」

ある種、「未来への希望を信じるかいなか」の選択肢にも感じられるこのシーンには、ふと、『虚空門 GATE』と『星の子』のラストを思い出しました。
(たぶん、観た人には伝わっていると思う。笑)

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[おわりに]

独特な空気感にハマれば、もっと好きになれたであろう本作。

個人的には、主演・山田杏奈さんのクローズアップカットが素晴らしかっただけに、女子高生たちの会話シーンでも遠景ではなく、もっと表情が写るシーンが欲しかったなど、色々な不満点はあります。笑

しかし、監督の過去作を追っていたことで楽しめた部分は多く、その独特な空気感が好みであることは分かったので、今後も監督の作品が楽しみになりました。
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