ーcoyolyー

ジオラマボーイ・パノラマガールのーcoyolyーのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

瀬田なつき監督渾身の一作。


この映画の制作情報初めて見た時「え?何で今『ジオラマボーイ・パノラマガール』?」って思ったんですよ。岡崎京子作品の中でも映像化されるような重要作ではないという認識だったので。

でもあえて今、『ジオラマボーイ・パノラマガール』を映画化するってことは私にとっては重要作ではなくともこの作り手にとっては重要作なのかな?と薄らぼんやり考えていたことが鮮烈に思い出される滑り出しで。始まった瞬間もうそこで泣きそうになったんだけど、ファーストショットでコロムビアのレコードプレイヤーが映った瞬間に泣きそうになったんだけど、主人公が学校行ってオザケンの『LIFE』のヴァイナル抱えて友達と『ラブリー』歌ってたの見たらもうダメだった。ああ、そういうことかと。ここにいるのはあの頃の私たちかと。原作は80年代設定だったけど、ここでは学校で『LIFE』のCD持って友達に貸していた私や私たちの話にしたのかと。劇中で2019年9月17日のイベントのフライヤー渡されてて遊びに行ってたから公式設定はそういうことなんでしょうけど、実質的には90年代です。だってこの映画ほとんど携帯電話出てこないの。岡崎京子漫画って携帯電話が出てこないんですよ。彼女の事故は携帯電話が普及する直前の時代に起こったことだったから。あれだけ電話描写に拘りがあった人なのに、その時代の最先端はコードレスフォンなんです。そこで彼女の漫画の時代は止まってしまってるんです、メチャクチャ携帯電話使いこなしてそうなキャラクター描いてるので割とそこ見落とされがちなんだけど重要なポイントなんです。この映画の中で一瞬だけスマホとインスタ出てくるけど、それの持ち主は異星人みたいなもんだから。この映画の世界観には住んでいない人だから。だから彼に持たせたのは効果的でもある。彼だけは別世界からやってきた異星人なので。そしてそれは実はエンドロールにも繋がるんですけど。ここら辺の匙加減絶妙でしたね。

この映画『ジオラマボーイ・パノラマガール』を謳っていますが実質的には『pink』と『リバーズ・エッジ』も綺麗に融合しています。まだ映像化されていない映像化されそうな岡崎京子重要作品『pink』映像化へのハードルものすごく高く上げてますし、『リバーズ・エッジ』な!あの行定勲にクソミソに穢された私たちの『リバーズ・エッジ』を私たちの手に取り戻してくれてありがとう瀬田なつき監督!という感謝の念が絶えません今。ほんっとあれは酷くて行定勲にあんな風にズッタズタに蹂躙されて悲しくて悔しくて泣いたあの頃の私たち、というのがちゃんと『私たち』だということが確認できて、やっぱり私だけではなくて彼女も悔しかったし、他の彼女も彼女も彼女も皆悔しかったんだって伝わってきて、わたしは孤独ではなかった、同じ思いを抱えた仲間がこうやって綺麗にカウンターを決めてくれた、という手を取り合って想いを繋げた感動?

最後、もうこれUFO呼ぶやつだろ?呼べよ呼べUFO呼べ!とずっと念じてたらUFO来たんだよ!そこで滂沱の涙だよね。あの日の山田くんとハルナちゃんはUFO呼べなかったけど私たちは呼べたんだよ!何言ってるか分からない人は『リバーズ・エッジ』読めよ!UFOなんだよUFO🛸!という完全なる解釈一致がこんなに嬉しいものだとは思いもよりませんでした。

『チワワちゃん』『愛の生活』『東京ガールズブラボー』辺りが個人的岡崎京子重要作品である私からは『ジオラマボーイ・パノラマガール』や『リバーズ・エッジ』は遠いけど、岡崎京子本人のように普通の都立で育ったような人にはあるあるな空気感で重要作品になるのかなとこれ観てて思った。瀬田なつき監督調べたら埼玉の公立出身みたいで納得。大阪弁の男の子も彼女が大阪出身らしいから切実に必要な要素だったんだろう。ラストショットは私にはさいたま新都心のように見えたのも彼女がその辺で育ったからなんだろう。そういうものが露わになっているし隠そうともしていないところ好感が持てる。

『ジオラマボーイ・パノラマガール』や『リバーズ・エッジ』は私から遠いけど、前述作品以外に『カトゥーンズ』『ハッピィ・ハウス』『ROCK』辺りの好んで読んでいた方の作品のエッセンスも綺麗に溶け込んでいたところ居心地がとても良かったです。

あの頃の私たちからの岡崎京子先生へのラブレター、「あの頃の私たちは大人になってしまったけど、今でも岡崎京子作品とこうやって共に生きています」と代表して綴って届けてくれたこと、瀬田なつき監督に本当に感謝しています。

何より大塚寧々な。あの頃の私たちにとっての大塚寧々がどういう存在だったかってあの頃の私たち以外にわかる人ほぼいないんだろうけど、大塚寧々がそのポジションな!それな!もうほんと隅から隅まで配慮が行き届いていた。好き。
ーcoyolyー

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