なべ

TITANE/チタンのなべのレビュー・感想・評価

TITANE/チタン(2021年製作の映画)
4.0
 クローネンバーグがやらないなら俺(私)がやる!そんな心意気すら感じるジュリア・デュクルノーの長編第二弾。「RAW 少女のめざめ」を観たときから彼女の変態ぶりに注目していたが、こちらの予想を上まわってきやがった。
 女性の変容を猟奇的に描くのがジュリアの流儀だが、今回もなかなか攻めてる。いや、攻めすぎだろ!
 ポスタービジュアル以外なんの予備知識もなく、新文芸坐オールナイト「彼女の変容、彼女の変態」で観たもんだから、その変容ぶりに横っつらを張られたようなインパクトがあった。
 
 幼い頃、交通事故で頭にチタンプレートを埋め込まれたアレクシアは、以来クルマに異常な(性的な)執着を見せるようになるんだけど、自動車事故によって性的倒錯がエスカレートするといえば、そう!クローネンバーグのクラッシュ。
 先日、4Kリマスターされたクラッシュを観たんだけど、倒錯ぶりが記憶と違っていたのね。ぼくの記憶の性的倒錯はまさにTITANで描かれた世界。クルマと人体によるセックス(融合)だったのだ。だから初見なのに、あ、このシーン知ってるぞ!とデジャヴのような感覚に陥った。
 もうね、とにかく荒いの。話が迸ってるのよ。内から湧き上がる衝動を抑えられなくて、でもそんな宿命をなんとか出し抜いてやろうと切歯扼腕する姿が不思議と嫌じゃなくて、無謀とも思える雑な計画にも肩入れしちゃう。
 奇妙な巡り合わせで絶対君主的な消防士のヴァンサンと出会い、彼の息子アドリアンとして生きることになるって、ええーーーー! 無理じゃん、そんなの。
 そう、めちゃくちゃ無理のある設定。つっこまれた瞬間に大破しそうなくらい。でも見入ってしまう。説得力があるわけじゃないのに、ヴァンサンの有無をも言わせぬ父性愛がグイグイくる。ヤバすぎて逃げようとしてたアレクシアもものすごい愛に触れて次第に信頼を寄せるようになる。丁寧な表現でも繊細な描写でもないけど、虐待された人間不信な犬がだんだんひとを信用し始めるYouTube動画のようなわかり味があるのな。たぶんこのあたりで、拒絶反応が出て、あほかって人がいるんだろうけど、きっとそれは正常。デュクルノーの一部のわかる人にだけ伝わればいいって気持ちが響くほうがおかしい。なんだか知らない感動領域に連れていかれちゃったなんて異常だよ。
 執着とも妄想ともいえるおかしな愛(だとおもう)を受け入れた先に待っているのが、これまたシラフでは受け入れ難い展開なのだが、ここまで付き合えた脳は、これを是としちゃうんだなあ。
 エンジンオイルまみれで生まれてきた赤ん坊を抱きしめて絶対的な愛を誓うヴァンサンに泣いちゃったもん。泣くか? 笑ってもいいような変なシーンの何をどう理解して泣いてるのかさっぱりわからなくてなかなかレビューできないでいたんだけど、いや、今もそれは決着ついてないんだけど、少なくとも新しい価値観の扉を無理やりこじ開けられたような怖さと気持ちよさがあったのは確か。

 一応、この世界観が意味不明って人にも手がかりはある。たとえば性自認・性同一性って切り口。自身の性に違和感がある人っているよね。アレクシアはきっと自分の性がクルマなんだよ。そんなセクシャルマイノリティの違和感の話だとしたら、ちょっとはわかりやすくならないかな? そしてそんな異分子な自分を何も聞かず、何も言わずその存在を全肯定してくれる存在がいたら、周囲との関係性も変わってくるんじゃないかな?
 そんな理屈で理解するような映画じゃないんだけど、なんでもかんでも考察しないと気が済まない方はそういうアプローチで観るのも一興かと。
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