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TITANE/チタンのAirconのレビュー・感想・評価

TITANE/チタン(2021年製作の映画)
3.6
これはちょっとついていけない。
最初から最後まで。
まあこの困惑が規格外なのはそう。
アナロジー的に身近な何かとハマって共感できる感じもなかった。

すんごい雑な言い方をすると、「フランスっぽい」性についての現代芸術的な進歩のロジックを内部に感じるのと、このグロさは「女っぽい」とも思った。
女の人の感覚なんだろうな、と消去法的に感じた。
出産とかゲロとか男にとってはただただ避けるべき苦痛でしかないが、女にとっては元々ある程度心構えがあるというか、ただ避けるべき苦痛ではなく、映像ですらも予行練習的に意味があるというか。
なんとなく負の感覚が少なそう。
自分としては、映像で痛覚に訴えかける痛みとかゲロとかの表現は本当に見たくもない、ある種の自傷行為に近い。
痛みとかゼロにしたいもん。
それなのにこのスタンスは、なにか還元されるものかのような執拗さを感じた。
だからアナロジー的に身近な何か感じ取れる、取っているのは身体的な女なのかなとか考えた。

血には鉄分があって鉄の匂いがするから、あの黒い鉄汁みたいなものもかなり血と近い感覚だった。
血みたいに出てくるからそりゃそうなんだけど。
インダストリアルなウェアハウスなシチュエーションも多くて、チタンっぽい。

現代芸術的な進歩については、複雑すぎて理解は追い付かない。
理解が追い付かなかったり、共感ができないくらい新しいのはわかる。
複雑すぎる。状況が。
息子を失って寂しい親父と、連続殺人犯の女が息子のふりして、そこに信頼関係が生まれつつ、、、まではわかる。(ペドロアルモドバル的な複雑な感情)
そこから先、消防車の上で前職で培ったセクシーなダンスを披露して、それを親父が見ちゃう、そしてお互いに荒れるとか、、、ひげ生えてきた息子というテイの32歳の女の出産を手伝う、そして変なものが生まれるとか、、、感情が難しい、そしてそれは相当新しい感情であることは確かで、そういうゲームなら優勝だが、映画とはどういうゲームなのか。(『LAMB』とか『ボーダー』とか概念を超えてしまうことで新しい感情を創造することはわりとある)

それから何かをアナロジー的に感じること、リンクがまったく無くてもいいのなら、単純に意味不明でも良いとなるわけだから、そんなことはないのだろうけど。
確かに脚本とかの場合は、複雑にし過ぎて理解がされていない場合も多いし、そもそも「わからない」のは全然アリなのかもしれない。
(点数はあくまでエンターテイメント面も考慮した読後感みたいなもので直感的に付けているので、意義みたいなものを入れるともう少しプラスになるのかもしれない)



脚本は、序盤にかなり仕掛けてあって、自分の中では全部「妄想説」が最後まであった。
そもそも頭の内部に改造を施してあるという、彼女の主観はなんでもアリと”言っても”いい状態だが、あくまで映画ではそういうことは言っていない。

一番最初におや?と思うのは、ジュスティーヌ(前作の主人公)とはシャワー室では初対面だったけど次の登場でもうレズビアンやってて、また乳首で、また痛い。
もちろん「仲良くなったのかな?」とか、「数日後?」とかは全然ある。

そして次の瞬間ジュスティーヌのNEVER GIVE UPを着てる。
そして妊娠したっぽくて箸で自分で刺す。黒いのがついてる。
そのあとから謎の殺人鬼ムーブ。
ジュスティーヌの(今回もまた)耳を刺し痙攣して泡を吹いて死ぬ、ロマンは椅子、ジュピは箸で、クリクリだけは反撃され殺しそびれる。

外、親父が窓からタバコを吸いながら見てる。(帰ってきた?)
ガレージでNEVER GIVE UPすんごい燃える。
親父の部屋で気が付いて何か言おうとするが鍵を閉めて閉じ込める。
家出スタート。

ジュスティーヌとレズビアンをやる前のシーン、家で朝食時に親父と見ていたニュースでは、
「10歳で行方不明になったアドリアンルグラン」
「キャンプ場の火災」
「男性2人女性1人がこれまでに殺されていて、新たに47歳の男性が殺された」
で、今の奇妙なシーンが三番目のニュースと似ていることに気が付く。(47歳男性は親父?)
ここでは、ずっとニュースの画面が映っていて明らかにニュースの内容に意味があることはわかる描写だった。
(字幕だと、字幕があるかないかで、意味があるかわかる。)

駅に着くとまたルグラン君のデジタルサイネージで、いよいよ現実かわからない、『ステイ』とか『アンダーザシルバーレイク』みたいな奇妙さ。
(だけど、まだ「説明がつく」「補完できる」程度のラインは十分維持している)

一番最初のストーカー殺人も、その前に写真を求めてきた男(即ニッコリ解除)で、それ自体は説明できている気もするが、安易すぎる殺人で妄想説も考えられる。
(ここ、キモい男がガチで告白してくるのがキモイ、迷惑、怖いって言うのは女性にとってあるあるなんだろうな。)



モチーフはかなり明確に繰り返される。

親父との関係。
子供のころから謎に親父を睨んでる。
ベルトラン・ボネロがかなり意味のある見つめ方をしてくるので、この関係は特別なものだとよくわかる。

車が好き。
事故にあう前からエンジンの回転音を真似して、親父に音楽を上げられているし、手術後も車にほっぺをぎゅっとして満足そう。
車好きは事故や手術がきっかけではなさそう。

炎、
最初のキャデラックのファイアパターン。
NEVER GIVE UPの燃え方。
消防士なので当然火事の現場に入る、ニュースで言っていた様なキャンプ場の火事もあった。
炎には執着ありそう。

ホモソーシャル、マッチョイズム、
消防団のホモソーシャル、バスの最後部のホモソーシャル、消防ガレージでのレイヴパーティ、とにかくホモソは害。
親父に軽く殴られ続け「男ならかかってこいや」的な、だけど親父のマッチョはそれ自体がフェイクなのだ、という男のマッチョの虚飾性。
女性視点での男性の嫌な部分がよくわかる。
(害や虚飾性は否定しないけど、好きで男性に生まれたわけでもないのに何で男性のやることだけは徹頭徹尾自己責任なのか、女性性にまつわるものは自由意志でないのでまわりでサポートしてあげるのが当たり前なのに。運命ならそれも運命なんじゃない?)





「良心」に、指名手配の似顔絵でバレる。
似顔絵までは出ていて、知り合いを殺してるんだから、知り合いの知り合いで彼女を知っている人は当然いるだろうから、頭のこめかみの特徴まで出ると思うんだけど。
当然、写真もすぐに出るだろうし。
連続殺人犯のわりにバレなさすぎ。
そういう点でも妄想説ある。

あと、あれだけ妊婦なのにテーピングだけでバレなさすぎな気も。
胸だけなら何とかなるのかもしれないが腹はさすがに。
仕事の時だけ都合よく縮んでるレベル。

「髭を生やす」も謎。
「剃ると濃くなる」という話はあるが、もちろんそんなんで生えてくるわけはなく。
女である主人公が話だけで聞いた思い込み説。




以上の関係から、上で「複雑すぎてわからない」と思った関係は、シンプルに、自分に無関心な父親との関係をやり直したい娘と、行方不明の息子が帰ってきてくれたらと心から願っている父親の話がベースで、、、それ自体がすべて娘の妄想かもしれない、そして車愛が妄想に入り込んでいる、みたいな映画なのかなと思った。

「家族でないものたちが必要に駆られて家族を演じる」というのは『万引き家族』でもあった。
そういう足りないものを埋めるために「家族」というフォーマットを利用するのは、リベラルの「家族的な人間関係はヤバい」という運動の本末転倒感はあるが、人間はそういう害と益が入り混じる濃い人間関係を「嫌だけど欲している」みたいなところがある。
「誰もいないと主観が意味が無くなる」、みたいなところがあるので必然的にそれを求める。
害と益が入り混じっていたいし、何なら害も欲しているし、大して意味もなくリスクも侵す、酒とか飲んだりする、そういう他人というカオスを愛しているのが人間。

そういった普遍的な話に、車やチタンと言った「カラー」が大胆に、「性」の部分に入り込んでいて、かなり特殊で奇抜なものになっている感じ。


菜箸大活躍はNWOFHの『屋敷女』でもあった。
妊婦要素もあったな。
『屋敷女』であのヤバい看護婦役だった人がおばあさんで出てきたけど演技上手かった。
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