悪魔の毒々クチビル

ジョン・ウィック:コンセクエンスの悪魔の毒々クチビルのレビュー・感想・評価

4.8
「これが人生だ」

ジョン・ウィックの自由を求める最後の戦いを描くお話。


米国から約半年遅れで公開されましたが、同日に向こうでは「エクスペンダブルズ4」が公開ってことでね、羨ましい限りですね。世界よ、これが日本だ。

シリーズ最長の3時間弱という長さが不安でしたが、いざ観てみたらまぁ面白い。
何が不安て、過去作にあった微妙な中弛みがこの長さだとより悪目立ちする可能性だったんですが、今作ではアクションの分量をアホみたいに増やす事でテンションを常に一定以上に保ちダレを強行突破で消し去る内容となっておりました。
その分、長過ぎて疲れる人も多いとは思いますが。

序盤の大阪コンチネンタル戦から既にクライマックス感が凄い壮絶なアクションシーンでしたが、ただでさえアクション過多なのにこれをこんな最初の方に用意出来ちゃうバリエーションの豊かさがエグいよね。
伊澤姐さんらのスタントも勿論、真田広之vsドニー・イェンと言うレジェンド同士のバトル等このくだりだけで長々と感想書けちゃうくらい充実したシークエンスでした。

キアヌ・リーブスも何やかんやでもう60近いとは言え、自身のアクションは今まで以上に頑張っていたと思います。
アクロバティックな動きがキツい分、柔道的な投げや関節技や空手的な手刀、そしてお馴染みガン・フーと言ったジョンの得意分野をより磨き上げヌンチャクみたいに新たな武器にも挑戦していてやっぱり凄いなと。
ヌンチャクを首に掛ける仕草がキレッキレで超格好良かったです。

最初の予告編をチェックしただけですっかり忘れていましたが、何故かスーパー巨漢と化したスコット・アドキンスも普通に格闘していて一安心でした。
監督のチャドから「君に"ジョン・ウィック"の新作でやって欲しい役があるんだけど、どうかな?」と打診され「勿論やるさ!!どんな役だい?」とノリノリで快諾したときはまさかこんな役だとは思っていなかったでしょう。まぁチャドにも「多分思っているのとは違うと思うんだけど…」って言われたようですが。
巨体ながらお馴染みの回し蹴りは健在でしたし、体重差を活かしてジョンを圧倒していました。
キアヌ・リーブス曰く、最初スコットの変幻自在な蹴りに対してリアクションが難しかったそうです。「うお!こんな所から蹴りが来るのか!」みたいに。
因みにジョンに歯を取られるシーンでは最初のテイクの時に、キアヌが間違えてスコットの上唇を掴んでしまったらしく割と痛かったらしいです。

マルコ・サロールの要所での格闘も格好良かったですし、シャミール・アンダーソンも犬を使った戦闘スタイルは前作のハル・ベリーが完璧過ぎて霞みはしましたがまぁ見応えはありました。

そしてドニー・イェン。
彼もまた60歳になるとは思えないくらい半端ない速度とキレで動いていて、尚且つ盲目と言うキャラならではの独特なアクションも非の打ち所がない。
杖が剣になっているっていうのも最高だし、それを滅茶苦茶器用に使いこなしていてえげつなかったっす。
ラスボスポジションながら、全編通して満遍なく出番があり変に勿体ぶらないのも良かったですね。
思わず帰りにグラサンと杖剣付きキーホルダーを買っちゃいました。

終盤の凱旋門で大量の車が走行中でのバトルも、よくこんなシークエンス撮ろうとしたなと感心しました。
ジョンはおろか、敵も次々車に撥ね飛ばされながらのバトルは今まであまり味わった事のないヒヤヒヤ感があったし、絶え間なく起こる怒涛の交通事故ラッシュはあそこに居た多くのドライバーにとっても地獄だったでしょう。
あんな一般人も沢山いる中での殺し合いがまかり通るのも主席の力なのでしょうか。

その後も建物の上からアングルでグワーッとアクションを映したり、激長階段でのバトルだったりとやれる事は全部やってみました!な詰め込み具合が最早マニアックさすら感じるレベルで個人的に凄く好きな作風でした。
階段バトルもスタントチーム凄いなと思いつつ、一旦振り出しに戻されるジョンが流石に可哀想で切なかったです。
しかしそこからの共闘シーンは激アツ演出過ぎてちょっとウルっと来ちゃいましたね。

ここに至るまで「伝説の殺し屋」からすっかり「疫病神」扱いされて来たジョンに、ちゃんとルールに基づいて自由を得られる希望が出来たりと意外な突破口が用意されていまして、もうやけくそ気味に突っ走るジョンが気の毒だった身としてはちゃんと目的が出来たのは良かったと思います。
あとはジョン、ケイン、コウジと大物同士がかつての友人と言う設定も好き。
ケインは娘の為にジョンやコウジと敵対、コウジは友として主席に反してまでジョンを匿いケインと戦うと言ったシーンでの葛藤が凄く感情的に描かれていました。
各々セリフだけでなく表情でも心情を表現出来るベテランだからこそ安っぽく映らず、3人の覚悟がしっかり焼き付く悲しくも鮮烈な関係性でした。

これでシリーズ終わらせるつもりで作ったらしいですが、確かにこれで終わっても良いんじゃないかという幕切れでしたし、途切れない連鎖の虚しさも響くこの世界観にはピッタリな締めの気もします。
どちらとも受け取れるエンディングではありますが。
取り敢えずこれでもかってくらい、格好良いアクションが拝めて大満足よ。


そう言えばエンディングで流れる曲がIN THIS MOMENTっぽいなぁ、と思ってトラックリスト確認したら本当にITMの曲でびっくりしました。作曲にタイラー・ベイツが関わっていた様なので、今作用に書き下ろした曲なのかな?
まぁでも、ミドルテンポ主体なのもそうだしあのねちっこいvo.は完全に"Blood"以降のマリアの歌い方よね。
とか言いながら初期のメタルコア路線捨ててからはほぼ追っていませんが、まさかこんな大作のエンディングに起用される程人気バンドになっていたとは。
"Prayers"みたいなコテコテのメタルコアナンバーや、クリーンvo.主体でも"Forever"みたいな清涼感あるメロディックな曲を高校生~大学生の頃たまに聴いていた俺からすると、方向性だけでなくまさかライブがメタル界のLADY GAGA的な路線になるとは思わなかったなぁ、と言うメタル余談でした。おしまい。