故ラチェットスタンク

ジョン・ウィック:コンセクエンスの故ラチェットスタンクのレビュー・感想・評価

4.0
『ジョン・ウィックくんさぁ…』

とぼやきながらプロットを余計に捏ねくり回してダラダラダラダラダラダラダラダラ続く本シリーズを半奴隷的に追ってきたが、この169分を経てもう一度、しかし文脈を変えて、半ば軽蔑の意図を込めて、改めて言う。

『ジョン・ウィックくんさぁ…』

大概にしてくれ。無責任過ぎるわ。



 という感じのゴニョゴニョした文句はこのぐらいして、単刀直入に言ってかなり良かった。1作目が映画として至高で2作目はジョン・ウィックとして至高だったけど、今回は映画としてもジョン・ウィックとしても至高だった。

 とにかく、ジョン・ウィックはなにかと受け身なキャラクターだ。1作目は明確な復讐が動機だったので多少能動的だが2作目の後半からはほとんど事の収束と自身の安寧のために戦っている。3作目のパラベラムは最早延々と逃げ続ける話だ。逃避行の道程の中で出てくる殺し屋たちはジョン・ウィックへの重めの矢印を持って襲い掛かってくる。(この「矢印」が行くとこまで行って出てきたのがジョン・ウィック大好きっ子ちゃんの"ゼロ"で、アクションスタイルの大きな転換も含めて、パラベラムはシリーズ自体の過渡期だったのだと振り返ってみて改めて思う。)ジョン・ウィック:キアヌリーヴスには、それをバッタバッタと薙ぎ倒して行くツッコミ役、狂言回し的な役回りがある。正直、前作までは2時間のランタイムに対して彼の鈍臭さではボケを回しきれていない場面が多く、(たまに接待プレイもあって興醒めしたりしたものだが)そんな体たらくで169分いけるの?と思っていたけれど今回は本当に素晴らしかった。自身に向かってくる数々のボケ、それに付随する「お題」に対しての誠実で丁寧な対応が見られるのだ。ジョン・ウィック:キアヌリーヴスの狂言回しとしての極地、もしくはキャリアの集大成としてこれ以上の勇姿はないだろう。

 冒頭の砂漠での騎乗アクションから大阪へ雪崩れ込み、ベルリンのクラブで大暴れ、パリのストリートを駆け回りながら右も左も関係ねぇとのごとき凱旋門での人身事故多発の殺し合い、ドラゴンフレアの俯瞰(曰く「絵柄として成立してしまった)をかましたのち、極め付けは階段の上下移動(厳密には斜っているが、許せ。)という最も映画的エネルギーのあるアクションを経て決闘へと辿り着く。手際と手練と手管と手札の凄まじさに舌を巻いた。

 それにしても、力士のドアマン、道中で挟むルール設定のための謎のカードゲームや、5カードOKの謎ポーカーなど随所がマジの出鱈目だ。公道のど真ん中で人を轢こうとも誰一人として気にかけないし、人が撃たれても気にかけない。まっこと酔狂な光景が続き、最早そこに碌なお話はない。しかし、それはこのシリーズでやってきたことの総本山でもあるのだろう。2以降は裏世界の「規則」「契約」「儀式」に登場人物が振り回され続けるだけでしかなかったことがここに効いてくる。冒頭に述べた「プロットを余計に捏ねくり回し」もつまりはそういうことで「形式しか残ってない」ということだ。(だから、ケインもシマヅも伯爵も犬を連れた彼もバックストーリーが仄めかされるだけで、「それっぽさ」があるだけなのだ。) それは、ここにきてジョン・ウィックが最早狂言回し(ボケへのツッコミ)としての機能しか果たしていないことにも言える事だ。

 この「形式」の過程で明らかにキャラクターたちは疲弊していく。(終盤なんてジョンは足が棒になっている。)しかし、その形式に沿う度に主席連合及び殺し屋業界(=観客の欲望)は更なる形式を彼に強要して行く。そこから抜け出しうるとしたら唯一あの方法しかなく(そもどうしてジョンがその手段を知らなかったのか疑問だが)、様々な「形式」への「報い(= Consequence"悲惨な結果")」の結末としてこれ以上の決着はないだろう。

 最早何のために戦っていたか分からなくもなってくる今作だがそれでも主旨を繋ぎ止める最後の綱としてあの言葉があるのだろう。(=「妻を愛した夫」)

 まあそれにしてもこれだけ形式美しか残っていない作品でも成立しているのは役者陣と美術の腕が凄まじいと言うほかない。全員キャラが立ってる。ポーカーのくだりとか、ぶっちゃけかなりつまらないと思うけど成立するのはやっぱそう言うところだ。


追伸:
・アキラのスレンダーボデーラインが最高。
・スコット・アドキンスあの体型であの蹴り繰り出せんのはヤバい。
・ド兄さんの哀愁がいい。ラーメンSUSUってるシーンとてもよかった。
・子どもが階段を勢い良く駆け降りる映像の面白さは『千と千尋〜』や『フミコの告白』のお陰で容易に想像がつくのですが、スーツを着た長身の中年男性が階段をズッデンコロンドタドタバタ、と横転しながら転げ落ちる映像の面白さは、ちょっと想像がつきませんでした。