Ricola

健康でさえあればのRicolaのレビュー・感想・評価

健康でさえあれば(1966年製作の映画)
3.6
言葉なんてなくても通じる、サイレント映画時代のコメディのようである。
そんなピエール・エテックスの魔法にやはり吸い込まれた。

ジャック・タチのようなマヌケさが貫かれているが、エテックスの場合、自分自身以上にその周りへの伝染力のほうが強いことがわかる。そしてタチのような画の構図の均等さもしくは不均等さや、美しさや統一感以上に、個々の人物の観察に重点が置かれているようだ。
周りに「被害」をもたらすくせに自分は無傷。でもそれは故意ではない。だからとぼけた表情のままエテックスは歩き続ける。


4つの短編で構成されている作品だが、特に印象に残ったのは最後の短編。
エテックスはただ森の中を散歩しているだけなのに、ピクニックをしようとする夫婦をことごとく邪魔することになってしまう。
直接関わっているわけでもないのに、遠くの彼の動きが波及してしまうのだ。
柵を繋げている紐に引っかかって転ぶことで、遠くの柵の近くにいる夫婦が巻き込まれる。
食事をしようと持ってきたものを開けていざ食べようとしても、ちょっとずつエテックスに台無しにされていく。
じわじわ楽しみが邪魔される夫婦はもちろん怒りもつのっていく一方で、何も知らないエテックスという構図にやはり笑ってしまう。

登場人物ひとりひとりの感情や行動にフォーカスがあてられ、「エテックス対エテックス以外」という消化試合が行なわれているようなのだ。
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