真一

ドキュメンタリー沖縄戦 知られざる悲しみの記憶の真一のレビュー・感想・評価

4.0
 沖縄戦の悲劇を、体験者の証言をもとに伝えるドキュメンタリー。沖縄戦の悲劇の象徴とも言える「集団自決」について、あの惨劇は住民自らの意思による「自殺」でなく、軍に強いられた「強制死」だったとする関係者の訴えに、ハッとさせられた。当時の様子を知る人にとって、集団自決というワードは「玉砕」「転進」と同様、狂信的な軍国主義を美化しかねない言い回しだったようです。

 そのくだりで本作品は、1945年3月に起きた渡嘉敷島での「集団自決」に、軍から渡された手榴弾が使われた事実を取り上げています。証言によると、軍は手榴弾の使い道について、米軍への攻撃だけでなく、自決の際に使用するよう住民に求めたそうです。軍部が住民に対して自決を正式に命令したかどうかは分からないが、少なくとも、住民側が積極果敢に死を求めたわけではないのは、明白です。「集団自決」と表現した場合、心の底から「天皇陛下バンザイ」を叫んで美しく散ったかのようなイメージを、歴史修正主義者によって植え付けられかねないリスクがあることを知りました。

 住民が死んでも米軍に投降しなかった背景に、沖縄で実施された強力な「皇民化教育」の影響があったとする分析は、ストンと落ちました。ウチナーンチュを「二等国民」と見下していたヤマトンチュは、ウチナーンチュを「まともな臣民」に鍛え上げる必要があると考えたのでしょう。そして、その「成果」は、遺憾なく発揮されたわけです。天皇カルトによる軍国主義の恐ろしさを、改めて痛感させられます。

 さて、今の時代を生きる私たちは、過去の教訓を踏まえ、どのような安全保障体制を目指すべきでしょうか。これが、難しい。アメリカのブッシュ政権は9・11事件の悲劇を二度と起こしてはいけないとの反省に基づき、アルカイダの拠点と目されたアフガンを攻撃するとともに、歴史的な国防強化に踏み切りました。中国共産党政権は、日本軍の大陸侵攻でおびただしい犠牲者を出した歴史を「教訓」と受け止め、空前の軍拡路線を現在も邁進中。ロシアは、史上最大の死傷者を出したナチスの対ソ侵攻を経験しているからこそ、徹底した抑止力重視政策を掲げています。この米中ロ3カ国が、国際社会の安全と平和を脅かしているのは周知の事実だと思います。

 そう考えると①大戦中に地獄を経験した②もう戦争はたくさんだ③ゆえに戦力を保持せず、平和な世界の実現に全力を尽くす―という戦後日本の根本理念が、国際社会の共通認識にすることの大変さが、よく分かるというものです。歴史の悲劇から日本が得た「教訓」と、米中ロ3カ国が得た「教訓」では、悲しいほどまでに、中身が違いすぎます。しかも戦後日本の根本理念は、台湾有事に備えて国防を強化しろという政府・与党の号令の下、当の日本社会からも失われつつあると見た方がいいかもしれない。本当に、前途多難な時代です。

 だからこそ、多くの人に本作品を観て、何かを感じていただきたいと思います。
真一

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