ボブおじさん

パラサイト 半地下の家族 (モノクロVer.)のボブおじさんのレビュー・感想・評価

4.0
白黒映画を撮ることは、ポン・ジュノ監督にとって長年の夢だったという。彼がかつて憧れた黒澤明やジョン・フォード、ヒッチコックの古典的名作は、その多くが白黒映画であり、ポン・ジュノの中では白黒映画=〝巨匠の名作〟という図式があったのだろう。

非英語作品で初めてアカデミー作品賞を受賞したこの映画を同じ内容で敢えて白黒映画にしたのは、長年の夢を叶える自分へのご褒美だったのではないだろうか😊

ただし、この映を初めて見るというならやはりカラーバージョンをお薦めする。細かい理由は、後で書くとして、それよりむしろ既にカラーバージョンを見た人がこの映画を見るべきか?
多くの人が気になるのは、そちらの方ではないだろうか?

この質問への1番簡単な回答は、モノクロバージョンの予告編を見てみることだ。この時に、白黒映像への違和感や、内容についての既視感が気になるようなら見る必要は無いだろう。

逆に白黒映像への懐かしさや、別の映画を見たかの様な新鮮さを感じた人は、見る価値ありだと思う😊

ちなみに私は、カラーバージョンを4回観たが、モノクロバージョンの予告編を見た時、何とも言えない懐かしさを感じた。続け様に音声を消してもう一度予告編を見てみると、まるで小津や黒澤や今村昌平の映画の予告を見ているようでワクワクしてしまい。結果として前日のカラー版と2日連続して見ることとなってしまった😅

内容についての感想は、カラーバージョンで書かせて頂いたので、ここではモノクロとカラー版の違いや感想を簡単に。

まず、白黒映画になった事で、背景より人物に目が行くため、表情の変化やストーリーに集中しやすい。

また、光と影のコントラストが際立つため、明るい所から暗闇へと消えて行く〝例の描写〟が余計にホラーテイストに見えてくる。

大雑把に言えば豪邸でのパーティーの場面や前半のコメディタッチの描写はカラーの方が楽しめるが、地下室や後半のサスペンス調のパートは白黒の良さを味わえる。

基本的に海外映画は、字幕で見るのだが、今回敢えて吹替えで見ると古い日本映画を見ている様な気分になり、これも悪くなかった😅

ただし、この映画は、最初から白黒映像として作られた映画ではなく、カラー映画をデジタルでモノクロに変換している為、過去の白黒映画の名作と同列で語ることは出来ない。

映画としての完成度は、カラーバージョンの方が遥かに高いと思う。例えばピザに赤いピザソースをかけるシーンや家庭教師役の娘が桃🍑を小道具として入手する場面は、真っ赤なソースや桃が光り輝くカラーバージョンの方が遥かに絵が美しい。ちなみにピザソースも桃も2回登場する。最初からモノクロ映画にするつもりなら、違う演出方法を考えていただろう。

また、手前の人物にピントを合わせた時の奥の描写が暗くて見えづらい。更にセレブ妻が着ていた淡い色の服が、モノクロでは全て白に見えてしまい単調でセレブ感が感じられない。

これは、撮影技術や美術の問題ではなく、もともとカラー作品として作った為、本来の白黒映画の撮り方をしていなかったからだろう。白黒映画なら、それなりの色彩設計をするし、照明も変わってくるはずだ。。

ポン・ジュノが憧れを抱いたかつての巨匠が撮った白黒映画は、モノクロの中に、色や質感を感じさせる為に様々な演出や撮影トリックを駆使していた。光と影の演出もこの映画とは比べ物にならない位計算して撮影している。

一例をあげれば、黒澤明が雨の中での合戦を描いた「七人の侍」で、降り頻る雨の激しさを伝える為に、雨の中に墨汁を混ぜて撮影を行ったことはあまりにも有名だ。

それら先人の才覚と努力の結晶である白黒映画の名作とカラー作品をデジタル処理しただけの本作を同列で語るのは、いささか乱暴だと思う。

それでもこの映画が好きで、カラーバージョンとは違うテイストを楽しんでみたいという方は、こちらも見て比較してみるのもいいだろう😊