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百万粒の涙のotomisanのレビュー・感想・評価

百万粒の涙(2015年製作の映画)
4.1
 ボルボ760GLEに乗る北仏リール人。30年もそれに乗り続け暖房も効かず、雨漏りもホイールキャップも直さずといつから決めたのだろう。
 フランス中一日以内でどこにでもたどり着けるのに、何日かけて嫌われ者を装いながら同乗者まで求めて走るのか?検死官事務所にも前向き駐車の強張ったこころで待ち受けた対面をせめて生きてあれと何年望んだろう。

 流れ者の倣いのような靴下代わりの小銭入れに、あれも最後の日にあの女のような仕草や言葉遣いで暮らしていたのかと思い、30年に足りない親子の暮らしを追懐するのだろう。母親の死に目にもあえぬ子を今ならもう許せるのか?

 通報の事実を怒りを以っても打ち消しきれず、とうとう空港にも寄らず愛車で走り切ってしまう。この車に父親に誘われ喜んで乗り込んだ記憶が薄れることなくここにある。

 その娘が驟雨の中なぜ乗り込んでこない。そのほんの数十秒に娘はもう戻ってこない事を心に刻み込まれ、この30年分の涙にもう流れてよろしいと許す事ができるのだろう。


 リール人を特定する資料には詳しくないが、その気質を伝えるドキュメンタリー動画として、「こどもたちを救おう, ナチス占領下 リール市民の勇気」2021. Kuiv prods.(仏).がある。
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