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夜よ、こんにちはのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

夜よ、こんにちは(2003年製作の映画)
4.5
[] 90点

大傑作。マルコ・ベロッキオ長編18作目。1978年3月16日、イタリア元首相アルド・モーロは誘拐された。当時のイタリアは極右と極左のテロ組織による衝突が断続的に続く"鉛の時代"という重苦しい時代にあって、モーロを誘拐した"赤の旅団"も極左テロ組織だった。この事件はイタリア人の心に消えない傷を残し、イタリア近代史の空白となって、今でも様々な本や論文が書かれ、証拠が出れば何度も再捜査が繰り返される、そんな事件らしい。本作品の主人公は"赤の旅団"で誘拐に関わるキアラという女性メンバーである。彼女は監禁場所を借りるために夫婦役を演じるメンバーであり、市役所で働く公務員でもある。そのために、事件の間、彼女は社会とテロ組織のちょうど真ん中にいる。薄いドア1枚を挟んで、モーロの隠し部屋と玄関の間に住んでいることからも明らかだ。そんな彼女は、緩衝地帯から覗き穴を使って外世界を見つめている。誰からも覗かれないが覗くことはできるという、ある種の神視点を持ちながら、どこにも属していないという孤独、及びそこから発生する集団的狂気も内包している。モーロと赤い旅団との対話不可能性は、双方が逆方向を向いてモーロが手紙を読み上げるシーンで視覚化される。

物語の多くの舞台となる監禁部屋の構造が興味深い。コソコソするには窓がデカすぎるし、庭まで付いてるし、通りにも面していて云々。しかも、モーロの監禁場所である本棚のある部屋から玄関が見える構造になっていて、来客には必要以上に緊張感が漂う。また、監禁部屋と玄関の異様な近さから、キアラの妄想がある種の現実になりうるだろうという妙な説得力がある。

上記の通り、モーロ誘拐殺人事件はイタリア人の心に大きな傷を残した。となれば、あり得たかもしれない希望的結末を何食わぬ顔で持ってくるのは、必然とも言える。そうでもしないと咀嚼しきれないような気迫さえ感じる。
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