レオピン

スクープ・悪意の不在のレオピンのネタバレレビュー・内容・結末

スクープ・悪意の不在(1981年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

「マリス」は悪意、敵意、故意。フランス語由来の法律用語の意味も。「破線のマリス」「冷たい月を抱く女」なんて作品もありました。

マイアミの港湾組合長が失踪して半年。FBIの捜査は行き詰っていた。容疑者の男の父親は密造酒作りでのしあがったマフィア。きっと叩けばほこりが出るに違いないということで捜査主任のローゼンは情報操作もいとわず彼に捜査を集中させる。リーク元の捜査官といい関係を築いていた女記者がこれをスッパ抜く。序盤は『リチャード・ジュエル』そっくりの警察マスコミがタッグのえん罪みたいな話に見えたが、、

女性記者ミーガンの書いたあまりに無思慮な記事によって犠牲者もでた。無実の人間が社会から糾弾され追いつめられていく。いや社会派だなぁと見ていたが窮地の男はポール・ニューマンであるということを忘れていた。既に彼は勝つか負けるかのコンゲームに乗り出していた。

プロットは綺麗に三幕構成

26m  ミーガンがマイケルに取材申し入れ
1h07 マイケルが逆襲に ローゼンの情報集め
1h31 ミーガンはクイン検事に収賄疑惑をあてる

この国では報道も司法も奥の院みたいな所に遠ざけられ過ぎているせいで中々ピンと来ない所がある。一見複雑に見えるが、ここでいきなり話を『仁義なき戦い』に置いてみると分かりやすい。ヤクザ用語でいう画を描くというあれだ。
『代理戦争』では、広能が呉の長老大久保をかつぎだして、山守組の幹部と明石組を引き合わせるシーンがある。武田がどうあっても承諾するように外堀から埋めていったあそこだ。
だがここで一味違うのはマイケル・ギャラガーは男を使った。女性記者ミーガンに色恋をかける。シュワちゃんの『サボタージュ』でも復讐のために同様の手段をとっていたが。(あのシュワが色仕掛けってw)

これが見事にはまった。最終幕の非公式会合の席で全てのアクターが集結するのが心地よい。大審問官の前に引きづり出された彼らはそこで互いの顔を見合わせ表と裏の意図をあぶりだされる。それぞれ建前と本音を使い分けていた。

FBI  事件の解明⇔八方塞がりの末の違法捜査
検事 司法機関の暴走を抑える⇔情報提供と政界進出
記者 真実を伝える⇔一般人の人権を侵害

全員その職権をバイオレートしていた。ここまではいけるだろうという目論見は砂上の楼閣だった。三方一両損的に、いや三者ともにルーズ状態の中マイケルだけが勝ち抜ける。彼の立つ場所だけが「悪意の不在」と言って逃げられるポイントだったのだ。中盤以降、彼がこの場所を正確に予測していたと思うとまさに震えた。

ポール・ニューマン 56歳 円熟期 白洲次郎のような雰囲気
サリー・フィールド 有能らしさが今一ピンとこない ナイスな性格ではあるが
メリンダ・ディロン マイケルは彼女の無念のために動き出した
ボブ・バラバンのFBI捜査官 ウィルフォード・ブリムリーの法務官 
二人とも輪ゴム回しや手のひらをあわせる貧乏ゆすりで落ち着きない性格を表す
終幕のブリムリーの校長先生のような存在感は圧巻。お前 30日やるからな


ミーガンは大きすぎる代償を払い真実とは人の数だけあることを知った。闇夜の中でもがきながらも何が正しい報道なのか自問自答する。社会派ポラックとしてはニューマンとのロマンス抜きで行きたかっただろうが仕方なかったのかな。

発端の組合長の失踪事件についてギャラガーは白か? たぶん叔父が関わっていたのを知っていたのではないか。彼の近くにいて証人保護プログラムでは心もとない。これで安全圏に逃れ出ることができた。

ギャラガーを性格分析するとロードタイプ 細かい差異に気がつき整理上手 決して表に出ず分析を好むバフェットタイプだ こういう人物は怒らせると怖い。南部を後にボート一つで旅立っていく後ろ姿。彼はどこでも名経営者になれるだろう。

彼は法よりも掟に従う人間。それでいて上品さを失わない。出し抜くという発想ではないからだろう。その姿は交渉を何より尊ぶアメリカ人を象徴している。彼らのいうタフさというのはいかに倫理を失わないで目標に近づくか、その精神のことを言っているのだろう。

⇒メリンダ・ディロンはアカデミー助演女優賞ノミネート

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