Yui

あるアスリートの告発のYuiのレビュー・感想・評価

あるアスリートの告発(2020年製作の映画)
4.1
米国体操連盟ラリー・ナサール医師による性的暴行事件。勇気を持って声をあげた女子選手達と、事件を報じた地方紙の記者達の姿を追ったNetflixオリジナルドキュメンタリー。

数年前に話題になったので、頭の片隅に少し記憶があったけど、こんなにもショッキングで体操界どころか世界を揺るがす事件だとは知らなかった。時代背景や組織が分かるし、当事者が出てくるドキュメンタリーはニュースよりずっと伝わるし、心に残る。

20年以上、米国体操代表のチームドクターとして働いている中で、少なくとも250人以上の女子選手に性的暴行を行い、その内156人の被害者が法廷で証言するという…スポーツの歴史においても、何を取っても前代未聞なこの犯罪は決して許されるものではない。ドキュメンタリーを観ながら、悲しみと怒りと気持ち悪さで本当に息苦しくなった。彼女達の受けた苦痛は想像も出来ない。

犯人であるラリー・ナサール医師は、厳しい練習に耐える少女達を優しく手懐け、信頼を得て、性的暴行をしてもなお、治療なんだと信じ込ませていた…。アスリートといえ、彼女達はまだ子供で、世界や視野も狭く、何も分からず、信じてしまうのも無理はない。
『ジェニーの記憶』でもそうだったけど、幼い頃の性的虐待は気付くまでに時間がかかるし、記憶も捻じ曲げてしまうのだ。しかもオリンピックを目指す少女達…口を噤んでしまう子がいても不思議じゃない。自分がその立場だったら、やはり天秤にかけるものが大きすぎるとさえ思った。

そこに、性的虐待を知りながら金とメダルの為に見て見ぬふりをし、挙げ句隠蔽までした体操連盟。医師は性的虐待を続け、増え続ける被害者達。腐りきってる本当に。本来守られるべき子供達が腐った大人のくだらない欲のせいで壊されて行ったのだ。

カトリック神父による長年に渡る性的虐待とかもそうだけど、大きな組織になればなる程、腐敗していくのかな。絶対に間違いなのに隠蔽する大人が出てくる。そんなに組織が大事かよくそがと思う。でも、たまたまこうして公になっただけで、スポーツ界に限らず、こういう事は溢れているんだろうな。日本にも。どこにでも。

彼女達が競技でキラキラと輝く度に泣きそうになった。大好きな事でこんな思いをするなんて辛すぎる。オリンピック選手である事を誇れないと言う人もいた。

いくら犯人が逮捕されようとも、彼女達の心の傷は絶対に消えない。誰かに大切に抱き締められた記憶が心と身体に残るように、虐待された記憶が、心と身体からなかった事になる事はないと思う。それがとても悲しい。

せめて彼女達のこの先の人生が、傷付けられた記憶の分まで、大切に抱きしめられ、愛が溢れる人生であるように願う。

『スポットライト 世紀のスクープ』も素晴らしい実話映画だったけど、真の正義のあるマスコミがどれだけいるんだろうな。


2021-273
Yui

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