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ヤクザと家族 The Familyのjamのレビュー・感想・評価

ヤクザと家族 The Family(2021年製作の映画)
4.2
マコトくんは優しい眼をしていた

元来大人しい性格なのだろう、自分から前に出ることのなかった彼のことを
個人的に話すことなどなかった彼のことを
今でも覚えているのは
仄暗さのなかの瞳


中学に入って久しぶりに同じクラスになった彼は
目立たないイメージから一変して
ツッパリ、不良になっていてとても驚いた記憶がある

おおよそ似合わない長ランに煙草の臭い
どうしてそうなったんだろうか?
…彼の父はヤクザだった…


環境が人を育てる

雛鳥が親鳥を見て育つように
人もまたその親や周囲の大人たちから影響を受ける
人はひとりでは生きていけない
彼がそのために選んだ道を誰も責めることなど出来はしないのだ



賢坊、と呼んで頭をくしゃくしゃと撫でてくれたのは
無償の愛を注いでくれるはずの両親ではなく
その彼を慕い親子の契りを交わすということは
即ち、賢治が極道の世界で生きていくことを意味していた

義理と人情だけを信じていられたら
それ以上辛くはならなかったのに

愛を知ってしまった
その代償は計り知れない、とmillennium paradeが"FAMILIA"で唄う
まさにそのまま


時代の流れは残酷で
街の空に吐き出される煙突の煙のように
賢治の求めるものが雲に掻き消される


嘗ての賢治のように翼もまた
亡父と同じ道に足を踏み入れ
…そういえば翼も頭をくしゃくしゃと撫でられていた…

青く美しい空と深い海が
愛とそれ故の憎しみ、哀しみをそっと包む


この映画を観ている間じゅう
私の頭の中には
団地の公園にひとりで佇むマコトくんの姿が映し出されていた
jam

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