セサミオイル

ヤクザと家族 The Familyのセサミオイルのレビュー・感想・評価

ヤクザと家族 The Family(2021年製作の映画)
4.0
Netflixありがとう。
とはいえ旬の内にサブスク解禁とは小回りが効くというか今風というか経営手腕の鋭さを感じたりもする。とにかくありがたい。

この映画の入り口は予告編を見ても分かる通り、世界設定とキャスティングだろう。
最強役者綾野剛と本物のワルだった舘ひろしである。更に北村有起哉。ここにも北村有起哉。ここでも自分の仕事をキッチリこなしてたねぇ。彼が出てる映画は良作率高い。
他にも錚々たるバイプレイヤーが名を連ねる。
全部名前をあげていったらキリがないほど充実してる。
そして映画の肝はこの神キャスティングにあらず、あくまでも本編である。

本編は大きく繁栄期と衰退期に別けられる。
まず繁栄期ではヤクザ映画ファンへのサービスと言わんばかりのリアルな出来栄えで尚且つ役者がカッコいいもんだから俺なんかもうキャッキャ言いながらありがたく観させて頂いた(笑)
リアルさが圧倒的に足りないVシネを知ってるからこのリアルさは本当にありがたく思う。
制作には所作指導(!)に元ヤクザの肩書きを持つ作家の沖田臥竜氏。取材協力に実話ナックルズの編集長だった久田将義氏。こちらはきっと半グレ監修だろう。的を射て射て射まくった裏方人選で本職も納得のリアリティを獲得した。この点はほんとにすごい。
前半では話も単純明快、アクション活劇としてのエンターティメント的なベタなヤクザ映画を見せてくれる。
そして後半は平成から令和へ。
リアリティー演出の矛先もエンターテイメントから社会派方面へ移行する。
前半では堂々と刺青が大衆浴場ではしゃいでたが今は知っての通り刺青は入浴禁止。
今のヤクザは携帯電話の契約が出来ず、口座も作れない。ドキュメンタリー「ヤクザと憲法」でも謳われていたヤクザに人権はない。という状況である。
ヤクザを抜けても5年間は監視下に置かれるので中々立ち行かないという現実をこれでもかと見せつけられる。
連綿と続く負の連鎖に希望はあるのか。

暴力団は無法者なりに治安維持装置でもあった。迷惑でどうしようものない暴れん坊を引き取り厳しく躾け一般市民に手を出さないように指導した。素人の暴れん坊もヤクザがいるから好き放題出来ず結果的に市民に多少なりとも平穏をもたらしていた。海外からのマフィアにも睨みを効かせて結果的に国を守ってる部分もあったからこそ、警察とも持ちつ持たれつな関係があったんだと思う。
しかしやがてヤクザの力は肥大し均衡を保つため警察は締め付けに動き、今では弱体化し、今度は義理人情の価値観がない半グレが幅を効かせ始める。
今現在恐ろしいのはそっちである。
なんならヤクザが弱体化した今、国家権力もえげつない。
ヤクザを美化するつもりは断じてないが、国家権力の闇パワーも相当えげつないので安心は出来ないですね。
プロデューサーの感じから言ってこの辺りを強く問いかけたかったんではないだろうか。
とは言えエンターテイメントの部分がしっかりある見応えたっぷりの映画だった。